歓喜の世界文化遺産登録決定から一夜。1日の長崎県内は登録を祝うような青空が広がり、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」(長崎、熊本の12資産)を多くの人が訪れた。観光ガイドは「豊かな歴史を知ってほしい」と奮闘。一方で信徒からは「祈りの生活のペースを乱されないか」と心配する声も上がった。
長崎市南山手町の大浦天主堂には、朝から多くの観光客が押し寄せた。4月に開館した博物館で初めてガイドをした長崎純心大3年の中村仁美さん(20)は「二十六聖人の殉教や信徒発見の歴史を知らない県外の人も多い。世界遺産登録をきっかけに長崎のことをもっと知ってほしい」と張り切っていた。
長崎県南島原市の「原城跡」には約300人が訪れ、「南島原ガイドの会・有馬の郷」会員が炎天下、案内に当たった。大阪府の会社員、佐々木賢一さん(59)は「ガイドさんが丁寧にかみ砕いて説明してくれた」と満足げ。有馬の郷は登録決定を記念し、通常500円の「ワンコインガイド」を7日まで無料で実施する。
廃村の「野崎島の集落跡」(長崎県小値賀町)には、午後2時までに約10人が訪れた。おぢかアイランドツーリズム協会の前田敏幸理事長は「ガイド養成を急ぎたい。現在の6人を少なくとも10人に増やしたい」と今後の観光客増加を見据えた。
長崎県平戸市の「春日集落」の案内所には午前中に約50人が訪れ、売店で地元産の米や酒を購入した。住民の寺田賢一郎さん(60)は来訪者に集落の信仰の歴史を説明。「たくさんの人が来て、買い物もしてくれてうれしい」と笑顔だった。
長崎県五島市の「奈留島の江上集落」は台風接近の影響もあってか、フェリーや高速船で来島する個人客は少なかった。午前10時、海上タクシーで来た団体客40人が江上天主堂を観光。「きれいね」「すごい」と歓声を上げた。ただ、横浜市の50代女性は「説明してくれる人がいなかった。もう少し島の歴史や文化に触れたかった」と残念がった。
長崎県佐世保市の「黒島の集落」では、黒島天主堂を21人が訪問。黒島観光協会は登録決定に合わせ、島内を巡回する無料バスを運行した。佐世保市の公務員、米田剛さん(48)は、「これまでなかなか訪れる機会がなかった。素晴らしい天主堂。思い出深い日になった」と感動。一方、大村市の男性(67)は「食事する場所が見つからず苦労した。移動も無料バスがないと大変。受け入れ対策を充実させてほしい」と注文した。
カトリック信徒が多い長崎市の「外海の出津集落」。いつもの日曜の朝と変わらず、出津教会堂からオルガンの音と聖歌が流れた。教会守の尾下シゲノさん(69)は「いつもと変わらない静かで平穏なミサ。(世界遺産登録は)みんな内に秘めた喜びは持っていると思うが、騒ぎはしない」と穏やかに話した。
午後になると個人の観光客が急増し、約160人に達した。里帰り中にミサに参列した平戸市の女性(36)は「(世界遺産登録は)歓迎とそうでない気持ちが半々。みんな生活や祈りのペースが乱れないか心配な面もあると思う」と複雑な心境を口にした。