もしも、遠い宇宙から地球に異星人がやってきたとしたら――。友好的だったり敵対的だったり、内容はさまざまなれど、これまで多くの小説や映画などでそんな淡い妄想が描かれてきた。
そしてもし、それが現実のものになったら。そんなことをつい考えてしまうような出来事が起きた。
2017年10月25日のこと、天文学者は、太陽系の中を通過する、ある奇妙な天体を発見した。通常、小惑星でも彗星でも、太陽を回るようにして宇宙を飛んでいる。しかし天文学者が計算したところ、この天体はなんと、太陽系の外からやってきて、たまたま太陽系の中を通過していったものだったのである。
はたしてこの天体の正体はいったいなんなのか。発見以来、現在に至るまで、世界中の望遠鏡がこの天体に向けられ、観測が続けられている。
◆その名は「オウムアムア」(’Oumuamua)
この謎の天体を発見したのは、ハワイに設置されている未知の小惑星や彗星を発見するための望遠鏡だった。
私たちは太陽系の中にある小惑星や彗星の数を、まだ正確には知らない。まれに、新しい彗星が発見され、「地球からも見えるかも?」と話題になるのはそのためである。しかし、もしかすると地球に衝突するように飛んでくるものもあるかもしれない。そうした危機に備え、地球に近づく小惑星や彗星を検知するため「パンスターズ」と名づけられたシステムが構築され、ハワイにその望遠鏡の一群が設置されている。そのパンスターズが、この天体を捉えたのだった。
観測していた天文学者らは、すぐさまこの天体が、よく飛んでくる小惑星や彗星ではないということに気がついた。というのも、天体の飛ぶコース(軌道)を調べたところ、太陽を軸にして回っていないことが判明。すなわち、太陽系の外から飛んできて、たまたま太陽系の中に入り、パンスターズの観測に引っかかったのだった。
太陽系の外から飛んできた天体が見つかったのは、歴史上これが初めてである。もっとも、こうした天体が存在することは古くから予測はされており、人類の観測技術の発達と、いくつかの条件がそろった結果、捉えることができた、と考えるほうが正しい。つまり過去にもこうした天体はいくつも飛んできていたし、これからもこうした天体が見つかることもあるだろう。
当初、このような天体に対する命名規則ができておらず、どう呼ぶかについては長らく議論が続いたが、その後「1I/2017 U1」という符号で呼ぶことが決まり、そして11月7日には、ハワイの言葉で「遠方からの斥候・使者」といった意味の「オウムアムア」(’Oumuamua)という愛称が与えられた。
◆オウムアムアはペンのような形?
オウムアムアの存在が確認されて以来、世界各地や宇宙ある数多くの望遠鏡が、この天体に向けられた。ただ残念なことに、オウムアムアは発見された時点ですでに太陽や地球を通過して離れつつあり、それに追いすがるように、辛うじて観測できたにすぎない。
それでも、オウムアムアの特徴についていくつものことがわかっている。
たとえば組成は岩石や金属を多く含んでいて密度が高く、また表面は赤茶けた色をしており、これは長い間、宇宙線を浴びて風化したせいだと考えられている。ちなみに太陽系の外縁部にあるような天体も似た性質をもっている。
表面からはガスなどは噴出しておらず、いわゆる彗星のような活動的な天体ではなく、落ち着いた小惑星のような天体であることもわかっている。
そして天体の姿かたちは、直径約30m、全長180mほどの、ペンのような細長い形である可能性が高いという。
たんに楕円の球体をした細い小惑星というだけなら太陽系の中でもいくつか見つかっているが、これほどまでに細長いものは例がない。いったいどのような経緯でこのような形の天体ができたのか、まだ発見されていないだけで太陽系でも成立しうる形なのかなど、これだけでも大きな謎である。
もっとも、この形は望遠鏡で直接、確認されたわけではないことに注意が必要である。望遠鏡で形を見るにはすでに遠くに離れすぎているので、明るさの変化から推定するしかないためである。
オウムアムアは、明るくなったり暗くなったり、また明るくなったりを繰り返しており、これは天体が自転をしていると考えられる。そしてその明るさの変化の度合いも大きく、これは地球から横向きに見えるときには(表面積が大きいので光を多く反射して)明るく、前後方向が見えるときには(直径分の小さな面積しか見えないので)暗く見え、そして自転によってそれが繰り返されている、と考えれば説明がつく。
このことから、オウムアムアがペン型の天体だと考えるのは筋が通っている。
ただ、たとえば天体表面の物質が場所によって大きく異なっていれば、光の反射率も変わるため、同じように明るくなったり暗くなったりを繰り返すことになる。そのためペン型というのは、あくまで可能性のひとつと捉えるのが正しい。
◆自然現象か? それとも……?
もうひとつの大きな謎は、この天体がいったいどのようにして太陽系にやってきたのか、ということである。
最も考えられるのは、別の惑星系の外縁部にあった天体が、なにかの拍子に弾き飛ばされ、その惑星系を脱出して移動を開始し、数万年から数億年もかけてはるばる太陽系にやってきた、という経緯である。
前述のように、こうした天体現象が起こりうることは古くから予測はされていたため、その予測が裏付けられたというだけで、それほど驚くようなことではない。また逆に、私たちの太陽系から、どこかの惑星系へ飛んでいった天体もあるかもしれない。
オウムアムアが飛来したのは、現在こと座のヴェガがある方角からだった。しかし、太陽系からヴェガまでの距離と、オウムアムアの速度を考えると、飛んでくるまでに少なくとも3万年は経っているはずだが、いまから3万年前のヴェガは現在とは異なる位置にあったため、ヴェガ系で生まれてやってきたとは考えにくい。はたしてどこから、そしてどれくらいの時間をかけて飛んできたのかはまだわかっておらず、今後の研究に期待したい。
さらに突拍子のないことをいえば、異星人の乗り物だったり、あるいは異星人が送り込んだ無人探査機だったりという可能性もないわけではない。――「ないわけではない」、というのはちょっと誤解を招く言い方で、要は誰も確認しようがないので、完全に否定ができないというだけであり、少なくともその説を真面目に支持している天文学者は、いまのところいない。
ただ、だからといって、可能性を完全に否定するのはもったいない。思考実験としてその可能性について考えるのは、想像力を鍛え、そして私たち地球人がなぜ存在しているのか、この宇宙でひとりぼっちなのか、という存在意義について考える上でも、決して無駄なことではないはずである。
天文学者、専門家らが、この天体のことを恒星間小惑星(Interstellar Asteroid)や恒星間天体(Interstellar Object)だけでなく、「恒星間からの来訪者」(Interstellar Visitor)という呼び方をしているのも、そうした茶目っ気と淡い期待の現れだろう。
オウムアムアは太陽系に接近後、太陽の重力でコースをほぼ反転し、いまはペガスス座がある方向に向けて、秒速約40kmで飛び続けている。いつかは太陽系を脱出し、ふたたび恒星間空間に戻ることになるが、その後はどこへ行くのかまだわからない。そして人類は、その正体も行く先も、知ることはできないだろう。
秋の夜長、SF小説を片手に、この奇妙な来訪者に思いを巡らせるのもまた一興かしれない。
<文/鳥嶋真也>
とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。
Webサイト: http://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info(https://twitter.com/Kosmograd_Info)
【参考】
・ESO Observations Show First Interstellar Asteroid is Like Nothing Seen Before | ESO(https://www.eso.org/public/news/eso1737/)
・Earth’s First Known Interstellar Visitor Unmasked(http://www.ifa.hawaii.edu/info/press-releases/Oumuamua/)
・Solar System’s First Interstellar Visitor Dazzles Scientists | NASA(https://www.nasa.gov/feature/solar-system-s-first-interstellar-visitor-dazzles-scientists)
・C/2017 U1 PanSTARRS: the first interstellar comet ever? – 25 Oct. 2017 – Tenagra Observatories, Ltd.(http://www.tenagraobservatories.com/c2017-u1-panstarrs-the-first-interstellar-comet-ever-25-oct-2017/)
・News | Small Asteroid or Comet ‘Visits’ from Beyond the Solar System(https://www.jpl.nasa.gov/news/news.php?feature=6983&utm_source=iContact&utm_medium=email&utm_campaign=NASAJPL&utm_content=comet20171026)