解雇・困窮・DV…コロナ苦境、女性を直撃

新型コロナウイルスの流行が長期化する中、立場の弱い女性たちが苦境に追い込まれている。生活困窮やドメスティックバイオレンス(DV)に直面し、自殺者も急増。行政支援が届かず孤立する世帯もあり、さらなる状況の悪化も懸念されている。 【イラストでみる】「#コロナ離婚」の主な投稿 ストレスからDVに発展も  「新型コロナの拡大は特に女性への影響が深刻で、『女性不況』の様相が確認される」。コロナ禍が女性に与える影響を議論してきた内閣府の有識者研究会は昨年11月に公表した緊急提言で危機感をあらわにした。  女性たちをめぐる環境の悪化は統計からも明らかだ。昨年11月の総務省の労働力調査によると、アルバイトやパートなどの非正規雇用で働く人は2124万人で、同3月から9カ月連続で減少。同1月以降の減少数は女性が535万人で、男性(279万人)の約2倍となっている。  厚生労働省によると、コロナの影響に伴う「解雇・雇い止め」は今年1月8日時点で累計約8万人(見込みを含む)に上り、このうち非正規が約半数を占める。外出自粛などにより、女性従業員の多い飲食・宿泊業などが大きな打撃を受けているという。  特に所得の低いひとり親世帯への影響は大きく、支援団体には、当事者らから「子供たちには2食で我慢してもらっている」「米を買うお金もない」などと悲痛な声が届く。自粛生活で家事・育児や介護の負担増、DVにさらされるリスクも増大。内閣府の調査では昨年4~11月のDV相談件数は、各月前年の1・3~1・6倍となった。  警察庁や厚労省によると、昨年1~11月(暫定値)の女性の自殺者数は6384人で、前年同時期より752人増加。同6月から6カ月連続で前年を上回るペースで推移する。特に同10月は約9割増の879人に上り、40代が147人で最も多い。原因・動機では、健康問題や家庭問題の増加が目立つ。  公共政策が専門で自殺問題に詳しい早稲田大の上田路子(みちこ)准教授は「コロナ禍では若い女性の自殺者が増えており、この層に経済的問題など打撃が集中している様子がうかがえる」と説明する。影響が長期化すれば、さらなる状況悪化を招きかねないとして「国は女性たちが直面している苦悩の実態を把握した上で、生活基盤を整えるための具体的支援策を早急に打ち出す必要がある」と指摘する。 ■夫の暴力…実家も居場所なく  「この先、どう生きていけばいいのか」。長引くコロナ禍に、西日本に住む40代の女性は苦しい胸の内をこう打ち明ける。発達障害を抱える幼いわが子2人とともに、夫の住む自宅を離れ、実家に身を寄せて暮らしている。  女性は結婚を機に仕事を退職。自宅では家事と育児を一人で担ってきた。夫は感情の起伏が激しく、機嫌が悪いと些細(ささい)なことで激高。物を壊し、時に自分への暴力となって返ってきた。子供たちが標的とされることへの恐怖もあり、言われるがままの生活をこなすしかなかった。  ある日、「口答えした」と難癖をつけられ、手が付けられなくなった。警察に助けを求め、実家に避難するよう言われた。だが、実家にも居場所はなかった。  両親は「育児は母親がするもの」と支援の手を差し伸べてくれない。食事や洗濯などは別々。家賃を払うようにも言われる。仕事を始めたいが、子供たちが通う療育施設は不定期実施で、見てもらえる時間も短い。そんな苦境に追い打ちをかけたのが新型コロナの感染拡大だった。  子育ての合間に情報誌やウェブサイトを通じて仕事を探してきたが、経済環境の悪化で求人は激減しており、短時間で柔軟な働き方のできるアルバイトは見つけることが難しい状況だ。夫は離婚に応じず、自治体に支援を相談しても、低所得のひとり親世帯が受け取れる児童扶養手当や、コロナ禍で国が支給を決めた臨時特別給付金も受け取ることはできなかった。  現在は独身時代にためた貯金を取り崩し、子供の3食を用意するのがやっと。自分は夜に1食を残り物で済ませ、冬服も2着を着回している。DV被害者らを保護するシェルターへの入居を希望しているが、どこもいっぱいで受け入れてもらえない。「妻が子供を連れ去った」と主張する夫から脅迫めいたメールが日々届き、精神的に追い詰められる状況が続いている。  夜中、子供たちを寝かしつけ、布団に横たわって天井を見上げるとふと思う。「首でもくくれば、楽なのかな」。だが自分がいなくなれば、子供たちはどうなるのか。「どこにも行き場所がない。先を見通すこともできない。死にたくなる思いを打ち消すのに精いっぱいの生活を送っている」。女性はそう訴えた。(三宅陽子)

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