2016年11月5日付当サイト記事『訪日外国人は、どこへ消えたのか?突然にホテル宿泊者激減の謎…訪日者数は激増でも』では、東京から消えた訪日外国人の行方を追った。きっかけは、都内の大手ホテル幹部から「(昨年)8月は訪日外国人が増えているにもかかわらず、東京のホテルの稼働率が大幅に下がっている。彼らはいったいどこに泊まっているのか」という話を聞いたことだった。実際に発表された都内のホテルの稼働率などをみてみると、やはり大きく減っていることがわかったため、船利用の訪日客や民泊などにも注目して取材を重ねた。
JR東日本とNTTデータは4月20日、16年6月から8月までの「訪日外国人旅行者移動実態調査」を発表した。同社が調査を開始したのは次のような理由からだ。
「訪日外国人が増加し鉄道や新幹線の利用が大きく伸びていますが、フリーパスの利用が多いため、どのように利用されているのかこれまで把握できていませんでした。そこで、その傾向を把握するためにNTTデータに協力を仰いだというわけです」(JR東日本広報担当者)
調査は「広域移動実態調査」「狭域(⾸都圏)移動実態調査」「アンケート調査」を行っているが、この中で「広域移動実態調査」に着目した。
この調査にNTTデータが活用したのが、NTTドコモの「モバイル空間統計」だ。携帯電話ネットワークは電話やメールなどをいつでもどこでも利用できるように、各基地局のエリアごとに所在する携帯電話を周期的に把握している。この仕組みを利用して携帯電話の台数を集計し、ドコモの普及率を加味することで人の数を推計することができる。これがモバイル空間統計だ。これを利用し、外国人がどのように移動しているのかを調査した。
NTTドコモの訪日外国人500万台のデータを解析すると、これまで明らかにされてこなかった実態がみえてきた。
NTTドコモの調査では2016年6月から8月の間に出入国した訪日外国人は560万人と推計。⼊国区域は主要3空港のある“関東”と“近畿”に7割強が集中。次いで、“九州・沖 縄・北海道”。また、⼊国港別にみると、海港の多い“中国・九州”は分散傾向にあるという。
「広域移動者の“数”が多いのは“関東”と“近畿”⼊国者。また、“割合”は本州中⼼部に位置する“信越”・“北 陸”・“東海”が多い。⼀⽅、“北海道”・“沖縄”・“九州”は、狭域のみの移動者が⾮常に多い」(訪日外国人旅行者移動実態調査より)
関東エリアから入国した訪日外国人旅行者の数は253万人。このうち広域に移動するのは96.2万人で38%。一人当たりの滞在都道府県数は2.9か所だ。4割近い訪日外国人が都心から地方に移動しているが、移動先からそのまま出国するのは27.5万人(10.9%)しかいないから、出入国だけを見ると関東エリアからあまり大きな移動をしていないようにみえるということだ。
ではどこに行っているのか。近畿35.8万人(14.2%)、東海30.1万人(11.9%)、信越地方9.6万人(3.8%)、北海道7.2万人(2.8%)、となっている。
「⼊国3~4⽇⽬が、北海道・東北 滞在の移動のピーク。他は信越→北陸、東海→近畿と徐々に広がる」(同)
近畿エリアはどうだろう。入国者数は160.7万人で広域移動者数は47.1万人(29.3%)、一人当たりの滞在都道府県数は2.8か所でそのまま出国する人の数は27.7万人(17.2%)と関東エリアよりも高い。「⼊国3⽇⽬に東海滞在がピークを迎えた後、関東へ広がる。多くは、 6⽇⽬までに関東から出国」(同)するのだという。
このほか信越は旅行者数0.4万人、広域移動者数0.4万人(100%)とほぼ全員が移動する。「 ⼊国3⽇⽬が、関東滞在のピーク で、多くが4⽇⽬までに信越に戻る (⼀部は東海・近畿に移動)」(同)するという。北陸でも旅行者数1.5万人に対して広域移動者数は1.4万人(93.3%)、「⼊国3⽇⽬に信越滞在がピークを迎えた後、関東へ広がり北陸へ戻る(東海・近畿への移動も並⾏)」(同)のだという。
東海は26万人の旅行者があり、18.8万人(72.3%)が広域移動し、「⼊国4⽇⽬に関東滞在がピークを迎え、多くが5⽇⽬までに関東から 出国するか、近畿へ回帰」(同)する。
これを入国者の国別でみると、「“中国”・“アメリカ”・“フランス”は滞在都道府県数が多く、広域移動傾向が⾼い。移動傾向の低い“韓国”を除き関東が最多滞在区域だが、“台湾”・“⾹港”には、地⽅分散傾向が⾒られる。“中国”・”アメリカ”からの旅⾏者に、“関東”での⼊国~滞在~出国者数に⼀定の増減が⾒られる」(同)
もはや旅行は「日本=東京」という時代ではなくなったようだ。
(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)