訪日外国人2000万人は今年達成!?インバウンドブームの舞台裏

「2020年までに2000万人」の目標は今年中にも達成するか?

2013年に日本の外国人訪日客は1000万人を突破し、 14年は約1341万人に達した。伸び率はそれぞれ24.0%、29.4%と高かったが、今年に入りその伸び率に拍車がかかっている。1月~6月の訪日客 は既に約914万人に達し、伸び率は46.0%。これほど外国人旅行者が伸びている主要国は、世界広しといえども日本だけだ。

「東日本大震災以降、低迷していた韓国人観光客が戻ってきたことに加え、中国人観光客が前年比2倍以上に“爆増”。経済発展が続くタイを中心に東南アジア方面からの訪日も増えている」と、日本交通公社観光文化研究部主任研究員の守屋邦彦氏は話す。

世界経済の行方など不確定要素はあるが、仮にこの調子の伸び率(46.0%)が年後半まで続いた場合、15年の訪日客は約1958万人になり、昨年のよう に年末に向けて尻上がりになれば、2000万人突破もあり得る。政府は「2020年の五輪イヤーに2000万人」を目標に掲げてきたが、5年も前倒しで達 成する可能性すらあるのだ。

インバウンド観光(訪日外国人旅行)情報のポータルサイトの運営やセミナー、コンサルティングを手がける「や まとごころ」の村山慶輔社長は、訪日客急増の背景をこう分析する。「大前提は訪日客の8割を占めるアジア各国の経済成長。海外旅行者が急増すると言われる 年間所得3000ドル超の国が軒並み増え、それに円安、ビザ緩和、LCCや大型クルーズ船の就航、親日などの要素が相まって、訪日客激増という現象を起こ しています。とりわけ中国人の伸びは大きく、昨年は実に1.1億人が海外旅行に出ています。そのうち訪日したのは240万人でわずか2%。後の98%を取 り込むことで、今後も伸びしろは十分にあります」。

一方、訪日客を迎える日本側の宿泊施設や小売店なども、2つの出来事をきっかけにマー ケットがガラリと変わったという。1つが13年に外国人訪日客1000万人を達成したこと、そしてもう1つが同年9月に東京オリンピック開催が決定したこ とだ。「13年は大きな節目。翌年度から受け入れ側にも“スイッチ”が入り、百貨店などではインバウンド専任の担当者が次々と配属されていった。特にオリ ンピックというわかりやすいマイルストーン(目標)ができたことが大きい」(村山氏)。つまり、国内外の情勢の変化がいくつも重なり、空前とも言えるイン バウンドブームを巻き起こしているわけだ。

観光インフラの不足と日本人客の不満が課題

しかし、浮かれてばかりもいられず、深刻な課題も表面化してきている。訪日客増によって、東京、大阪、京都など大都市の宿泊施設が不足しているのだ。さらに、観光バスが足りないという問題も引き起こしている。

「大 都市の宿泊キャパシティは限界に近づいています。観光バスでは、例えば北海道ではピークとなる夏に外国からの訪日客が多すぎて、バスが用意できずにツアー 受け入れを断念する事態も生じている。政府は30年に訪日客3000万人を目指していますが、観光インフラに関しては、今までとは次元の違う取り組みをし ないと、対応できない」(日本交通公社の守屋氏)。

ホテル増につながる施策も必要だろうが、加えて個人宅に旅行者を泊める 「Airbnb」のような取り組みを、旅館業法改正などの規制緩和を通じて後押しすることも必要だろう。観光バスは営業区域を都道府県単位から、関東、九 州などのブロック単位や隣接県への拡大を特例措置で認めるなど、既に導入している規制緩和を継続するとともに、バス会社の提携や協業の促進も打ち手となる だろう。

観光インフラなどハード面の整備も必要だが、同時に日本人が訪日客に対する見方を改めるソフト面の改善も重要だと、やまとごころの村山氏は指摘する。

「百 貨店の化粧品売り場に中国人観光客が居座り、従来の常連だった日本人客が利用できないためクレームが発生するなど、全国各地の至る所で問題が顕在化してい ます。このままではアンチ外国人観光客の嫌なムードが広がりかねない。訪日客3000万人時代を見越して、今後日本が生き残っていくためには観光産業が不 可欠であると国民一人ひとりが認識し、外国人観光客を受け入れる一種の国民運動を展開しないと、東京オリンピックどころではなくなります」

各自治体でも今までとは次元の異なる対策が必要となる。村山氏は「自分たちの思いだけで観光資源を一方的にプロダクトアウトするのではなく、外国人の視点 を踏まえた上でのマーケットインの発想がとても重要。そのニーズに合致する強烈なコンテンツによって、誘客が可能になる」と話す。

例えば 立山黒部アルペンルートに出現する「雪の壁」は、雪が降らないアジア各国からの旅行者に大人気。あるいは長野県の地獄谷野猿公苑は、冬場に温泉につかる野 猿が「スノーモンキー」として世界的に有名になり、外国人観光客が引きも切らずに詰めかける。こうしたキラーコンテンツを発掘または開発して、一点突破で 誘客を図ることがポイントとなる。外国人視点の活用では、日本に留学、在住する外国人に協力を求めることも一つの手だろう。

欧米からの観光客誘致に力を入れる京都の取り組み

先進的な自治体のケースから学ぶことも重要だ。その代表格が京都だろう。京都市は「京都市観光振興計画2020」を策定し、通訳ガイドの育成、免税店の拡 大、京都の伝統産業製品販売店の多言語化の支援、Wi-Fiの充実、案内表示の強化など、実に164事業もの具体的な施策を推進している。

また、世界の富裕層を顧客とする旅行会社や高級ホテルなどの関係者を京都に招待し、商談する「ILTM(インターナショナル・ラグジュアリー・トラベル マーケット)」を13年に日本で初めて開き、その後2年連続で開催するなど、世界の富裕層マーケットの開拓にも積極的だ。

さらに、世界各 都市での情報収集や発信にも注力。「台北、上海、ソウル、香港、ニューヨーク、ロンドン、フランクフルト、パリ、シドニー、ドバイの世界10都市に京都市 海外情報拠点を設けています。海外向け公式観光情報サイト『KYOTO CITY OFFICIAL TRAVEL GUIDE』は13ヵ国語に対応し、その他フェイスブックなどSNSでも世界に向けて積極的に情報発信しています」と、京都市産業観光局観光誘客誘致課長 の須貝雅幸氏は話す。

インバウンド観光戦略の効果もあり、世界で最も影響力を持つとされる米国の旅行雑誌「トラベル・アンド・レジャー」 の読者投票において、昨年、今年と2年連続で世界の人気都市ランキング1位に選ばれた。京都を訪れる外国人宿泊客も13年の113万人から14年には 183万人へと約62%増加。日本全体の伸び率(31%)の2倍の勢いだ。

「京都といえどもブランドにおごることなく、数々の施策に愚直に取り組んでいるからこそ、今日の地位がある」と村山氏は言う。京都では20年までに外国人宿泊客300万人を目指している。

京都が欧米に多くの拠点を設け、著名な米国旅行雑誌で高い評価を得ていることの意味は大きい。2014年の日本全体で見た場合、アジアからの訪日客の伸び 率が33.0%なのに対し、欧州諸国からは16.0%、米国からは11.6%と、それほど大きく伸びず、欧米からの訪日客のテコ入れが喫緊の課題だから だ。

「今年6月に政府が発表した『観光立国実現に向けたアクションプログラム』でも、欧米市場に注力する方針が明確に打ち出された。世界の 旅行のトレンドは欧米など先進国に引っ張られるため、彼らを取り込むことが将来的にアジアなど他の地域の旅行者をさらに呼び込むことにつながります」(村 山氏)

国連世界観光機関(UNWTO)によると、世界の旅行者は1950年に2500万人だったのが、30年後の80年に2億7800万 人、さらに15年後の95年に5億2700万人に増え、約20年後の昨年にはその約2倍の11億3300万人に膨れ上がった。予測では2030年に18億 人に達するとしている。これほど成長が確実視されている産業は他にはあまり見当たらない。

14年の外国人訪問者数ランキングを見ると、日 本は世界で22位、アジアで7位と思ったほど高くない。アジアでは香港やタイ、韓国よりも下位に甘んじ、1位フランスの8370万人には遠く及ばないのが 現状だ。インバウンドブームに浮かれることなく、日本全体ではまだ観光後進国であると認識し、拡がる市場の争奪戦には心して挑む必要があるだろう。

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