訪日観光客が復活! 大阪の百貨店は活況だ

7月中旬、大阪・阿倍野区にある近鉄百貨店「あべのハルカス近鉄本店」はスーツケースを抱えた訪日観光客でにぎわっていた。化粧品売り場の仮設レジでは、家庭用や土産をまとめ買いする中国人が長蛇の列を成していた。

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近鉄本店では化粧品や子供服が牽引し、6月の免税売上高が前年同月比で約5倍にハネ上がった。店舗全体の売上高も、6月は同15%の大幅増となっている。

久保俊雄副店長は「訪日客の9割は中国本土からのお客様。旅行会社との連携など、集客の仕組みを整えたことが好調の要因」と説明する。近鉄は中国を中心に海外6カ国、90の旅行会社と組み、旅行商品を開発。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンとも相互送客や共同マーケティングに取り組んだ施策が実を結んだ。

 足元の好調を受けて、近鉄百貨店は2017年度の通期業績予想を実に7期ぶりに上方修正した。

■大阪地区の売り上げが伸びている理由

あべのハルカスは2014年3月に日本で最も高い超高層ビルとして開業したが、年間4740万人の入館者数目標に及ばず、中核の百貨店は低空飛行を続けていた。

だが、改装を進め「無印良品」の誘致など試行錯誤を続けていたところに、訪日観光客の追い風が吹いた。「今は国内の顧客も集客できている。今後も食品と化粧品に注力していきたい」と久保副店長は意気込む。

 近鉄だけではない。髙島屋大阪店や阪急うめだ本店も軒並み前年超えの好調が続く。日本百貨店協会の地域別売上高を見ると、大阪地区は2017年1月以降、東京と比較しても、回復が鮮明となっているのだ。

なぜ今、大阪が好調なのか。各店の担当者は、格安航空会社(LCC)を利用する客の増加だと口をそろえる。

関西国際空港(関空)では2014年夏ごろからアジア圏からの航空便が徐々に増加。2017年1月末にはLCC専用だった第2ターミナルビルを拡張し、国際線の乗り入れも増やしている。

「関空の旅客の6割以上が外国人。ほかの空港に比べても突出して多い。国際線旅客数は、開港以来の最高水準を更新し続けている」(運営する関西エアポート)。関空の発着枠には余裕があり、今後、さらなる便数増加も見込めそうだ。

■訪日観光客には日本人と同レベルの接客が必要

こうした恩恵を最も受けるのが、大阪市内の玄関口である難波周辺。ここは訪日観光客にとって、空港から1時間足らずとアクセスが良く、深夜まで観光客でにぎわうエリアだ。

 難波駅に直結する髙島屋大阪店も「やはり地の利は大きい。台湾や韓国からの観光客も増えている」(店内営業担当の西辻正美副店長)という。同店の免税売上高は前年同期比8割増(3~6月)と驚異的だ。

高級ブランドや家電製品など、高額品が中心だった「爆買いバブル」は2016年半ばに失速したが、今度は客数の増加によって、免税売上高が回復している。かつて団体旅行で訪れた観光客がリピート客として、家族やカップルなどの少人数で訪れている。

 好調の難波周辺も以前と様相は異なる。最近では、化粧品や食品などの消耗品が人気だ。また、個人旅行の顧客が圧倒的に多いという。さらに、メークアップのサービスを求める客が増えるなど、単なる購買ではなく体験を通じたコト消費も広がりつつある。

「訪日観光客のニーズは多様化しており、接客サービスの充実が必須だ。日本人と同じレベルの接客を求めている」(髙島屋大阪店の西辻副店長)

■日本人客との「共存共栄」はできるのか?

 一方で、大阪の百貨店を悩ませるのは訪日観光客と日本人客との共存の問題だ。

店側は接客カウンターを日本人客と外国人客で分ける、上層階にサテライト売り場を構築するなど、売り場を分散させる対応を進めてきた。だが日本人客からは、化粧品売り場などで「混雑しすぎてゆっくり買い物ができない」といった声が多く寄せられている。

阪急うめだ本店の佐藤行近本店長も「訪日観光客のリピーターを確保しつつ、日本人客にも満足してもらうことが、つねに課題としてある」と打ち明ける。

 活況に沸く大阪だが、いずれの百貨店も「急回復が続くのは年内まで」と冷静な見方だ。大阪地区で最大の売上高を誇る阪急うめだ本店でも全体に占める免税売上高比率は8%程度。やはり、9割を占める日本人客の取り込みが急務だ。

移ろいやすい訪日観光客の消費を取り込みつつ、日本人客にも受け入れられる店作りを実現できるか。「共存共栄」がカギになる。

菊地 悠人 :東洋経済 記者

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