証拠捏造を断罪した無罪判決、捜査機関に衝撃広がる…静岡県警幹部「正直納得いかない」

袴田巌さん(88)に無罪を言い渡した26日の静岡地裁の再審判決は、捜査機関による証拠捏造(ねつぞう)を断罪し、警察や検察に衝撃が広がっている。 【図解】一目でわかる…袴田巌さんを巡る再審判決のポイント

 判決は、事件発生から1年2か月後に現場近くのみそタンクから見つかった「5点の衣類」について、「捜査機関が加工して隠匿したものだ」と指摘した。

 証拠を「作り出した」とみなされたことに、静岡県警幹部は「ありえない」と反論。別の幹部も「なぜ捜査機関の捏造と言えるのか。判決には正直納得がいかない」とこぼした。「かなり前の事件だから……」と戸惑いを見せる幹部もいた。

 県警OBの男性(87)は「確かに初動捜査にミスはあった。しかし、有罪にするための証拠捏造など、百害あって一利なしだ。捏造認定は残念だ」と話した。

 県警の太田守刑事部参事官兼刑事企画課長は、「検察が判決内容を精査し、対応を検討するものと承知している」とのコメントを出した。

 静岡地検の小長光健史次席検事は報道陣の取材に対し、弁護団から控訴断念を求められている点について「(要請の)内容は承知し、趣旨も理解しているが、最終的にどう判断するかは別の問題だ」と話した。

 ある検察幹部は「法と証拠に基づくきちんとした内容の判決かどうか判断し、控訴の是非を検討する」と述べた。

袴田さんと面会 出廷免除認める

国井恒志裁判長

 再審で無罪判決を言い渡した国井恒志(こうし)裁判長は、事件が起きた1966年生まれの58歳。94年に任官し、東京高裁判事や横浜地裁判事などを歴任した。過去には交通事故や詐欺事件でも無罪判決を出している。

 今回の再審公判では、審理に先立って浜松市内で袴田巌さんと面会し、出廷免除を認めた。静岡地裁では、2022年に静岡県牧之原市で起きた園児の通園バス置き去り死事件で、業務上過失致死罪に問われた前理事長に実刑判決を言い渡し、「(被害女児は)教訓になるために生まれてきたわけではない。子どもの命の大切さを自覚しないといけない」と説諭した。

日弁連会長「権利救済に一刻の猶予も許されない」

 日本弁護士連合会の渕上玲子会長は26日に静岡市内で記者会見し、「巌さんの権利救済にはもはや一刻の猶予も許されない」と述べた。

 元東京高裁部総括判事の藤井敏明・日本大学法科大学院教授(刑事訴訟法)の話「袴田さんを犯人とする最も有力な証拠だった『5点の衣類』の赤みを巡り、学者の専門的な説明や検察側と弁護側双方の主張、その根拠とした証拠について丁寧にもれなく判断し、結論を導いた印象だ。検察側のその他の主張についても逐一検討した上で退けており、無罪判決は当然といえる。高齢の袴田さんとお姉さんを一日も早く解放するために、検察は控訴せずに判決を確定させるべきだ」

 元検事・高井康行弁護士の話「本来は白紙の状態で行われるべき再審だが、東京高裁の再審開始決定の枠内で判断された印象を受ける。警察だけでなく、検察も証拠を捏造(ねつぞう)したとの指摘には論理の飛躍があり、容認できないはずだ。事件では4人の被害者と遺族がいることを忘れてはならない。再審でも死刑求刑を貫いた以上、検察は控訴して上級審の判断を仰ぐべきだ。一方で、5点の衣類を事件発生当初に発見できなかったのは捜査の不徹底だ。裁判長期化の主な原因となったことを捜査機関は重く受け止める必要がある」

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