昨年から何かと話題となっているのが、“活躍“という言葉。政府が掲げた“一億総活躍社会” や“女性活躍推進法”など、誰もが社会に対して貢献できる構造づくりが進められている。この動きに伴い、企業でもすべての従業員が活躍できるような「働き 方」が重要視されるようになってきた。
今、様々な企業が「ダイバーシティ」を推進し、多様な人材を経営に取り入れようとしている。ダイ バーシティとは、直訳すると「多様性」。国籍、性別、年齢、生活スタイル、価値観といった、人それぞれの“違い”のことを意味する。ビジネスにおいては転 じて、その“違い”を尊重しあい、多様な人材の能力を最大限に発揮させようという考え方のこと。施策の一つとして、多様な働き方を可能にする制度の拡充が 挙げられ、育児「休暇」や介護「休暇」の取得だけでなく、時短勤務やフレックス制度、在宅勤務などを活用しながら、育児や介護をはじめとした様々な事柄と 仕事を両立できるような環境を整えることなどが考えられる。企業にとっては、従業員の能力を引き出すことができ、ひいては利益追求に繋げることができる。 従業員にとっては、キャリア形成や家庭への関わり方がより柔軟になり、希望する道を選択しやすくなる。このように、互いにメリットを得られるとして、注目 されている。
しかし、ダイバーシティ推進に取り組む企業において、実際の職場に変化はあらわれているだろうか。たとえば育児についても、以前に比べれば男女とも参加しやすくなる制度は増えていると聞く。従業員はその変化を感じているのか、現場の声を取材してみた。
・業界的に比較的時間の縛りも緩やかなので、男性でも保育園のお迎え等で早めに帰宅できる環境ではある(IT系/30代・男性)
・夫が制度を使って出勤時間をずらしたことで、お互いに子供と余裕をもって触れ合うことができるようになった(食品系/20代・女性)
・以前よりは取得しやすい環境にはなってきているが、周囲の男性については、育児に参加するためにフレックス制や時短勤務を申請する人はまだ少ない印象(金融系/30代・女性)
・制度はあっても、実際に手を上げて権利を行使する勇気がない。まわりの声が気になってしまう(マスコミ系/40代・男性)
さて、あなたの職場では、どうだろうか?
P&G の啓発組織「P&G ダイバーシティ&インクルージョン啓発プロジェクト」は、ビジネスパーソン2000名を対象にアンケートを実施。これによると「自分の勤務先では何かしら ダイバーシティ推進のための制度・施策に取り組んでいる」と認識している人は、全体の65.8%。しかし、そのうち約半分の47.0%が「自分の勤務先は ダイバーシティへの理解や取り組みは“進んでいない”」と回答したとのこと。
先 の質問で「進んでいない」と回答した理由を尋ねてみると、最も多く挙がったのは「企業文化としてダイバーシティが根付いていない」(42.6%)。続い て、「ダイバーシティ支援制度が充実していない」(34.3%)、「ダイバーシティ支援制度を活用しにくい雰囲気がある」(27.8%)との答えが挙がっ た。
このようなアンケート結果、また編集部が独自に取材したコメントをどう見るか。早くからダイバーシティ経営に取り組んできたP&Gの ヒューマンリソーシズ シニアマネージャー山本真一郎氏はこう語る。
「ダ イバーシティの理念のもとに企業が制度を作っただけで、それらを社員が気兼ねなく活用できるかといえば、まだまだ難しい状況がアンケートやコメントから受 けて取れます。やはりその制度を“使っていいんだ”と思える環境作りが必要なのです。そこで欠かせないキーワードが「インクルージョン」。「受容」と訳さ れるこの言葉ですが、ダイバーシティの活用を社内風土として根付かせることを意味します。従業員全員がこの重要性を理解し、互いの働き方を尊重し合うこと で、一人ひとりが働きやすい風土を浸透させることが重要です」
では長年ダイバーシティ&インクルージョンの推進に取り組んでいる、P&Gではどのようなことを実施しているのか。
「P&G では、福利厚生の観点でなく、業績を向上させる経営戦略として「ダイバーシティ&インクルージョン」に取り組んでいます。数値目標や制度の導入だけでな く、新入社員から経営層まで全員が「ダイバーシティ&インクルージョン」の理念とそれがもたらす価値を理解し、現場レベルで実践するための様々な トレーングを実施しています。ビジネス上での重要性を理解した後に、それを最大活用していくための“スキル”を身につけさせるのです。こうした取り組みに より、社員支援制度を使いやすい風土をつくり、さらには企業の文化として少しずつ根付かせていくのです。また、こういったノウハウや知見を活用し、社内推 進だけでなく、社外へ啓発していくプロジェクトも発足しました。対外的にも提供することで、社会全体にダイバーシティ&インクルージョンの考えを 浸透させ、日本社会・日本企業における“次の職場づくり”に貢献していきたいと考えています」
数値目標や制度の導入をしたからといってダイバーシティ推進は実現するのではなく、その先の「風土づくり」に、これからはもっと目を向ける必要がありそうだ。