販路回復 取引先探し企業奔走 新規事業にも力注ぐ

 東日本大震災で被災した東北の製造業者が、販路開拓に奔走している。生産態勢は徐々に整いつつあるが、復旧途上で失った取引の回復が進まないためだ。各社は営業強化や新規事業への参入を通し、浮上の糸口を探し続ける。(報道部・小野寺司、浅井哲朗)
<名刺100枚交換>
 東京都の東京ビッグサイトに2月、岩手、宮城、福島3県の水産加工など200社が集まった。食品関連で国内最大級となる商談会「スーパーマーケット・トレードショー」。復興支援として設置されたコーナーで、各社が商品を売り込んだ。
 「他社製品に切り替わった商品棚を取り戻すのは無理。震災前以上の営業攻勢を掛けるしかない」。参加企業の一つで岩手県洋野町の水産加工会社、宏八屋の太田俊一営業部長が話す。
 震災で取引先の3割が離れた。「品質には自信がある。この機会を取引につなげたい」。この日交換した100枚の名刺を手に、太田部長が力を込めた。
 東北産の食品は、福島第1原発事故による風評にもさらされる。来場した大手商社幹部は「被災地から離れるに従って風化が進む半面、風評は色濃く残る。アピールし続ける以外に打開策はない」と言い切った。
 販路開拓のターゲットは、大口顧客とは限らない。
 気仙沼市の水産加工会社、ヤマヨ水産は震災後、1口1万円でオーナーを募集。全国約900人から集まった約1300万円を元手に、処理工場を復旧させた。
 オーナーは資金提供者であると同時に、同社の根強いファンになる。小松武代表は「消費者と顔が見える付き合いで活路を開く」と手応えを語る。
<リスク覚悟で>
 新分野に未来を託す企業もある。時計部品を手掛ける須賀川市の林精器製造は、郡山市内の拠点にことし、自動車部品専用の表面処理装置を導入する方針を決めた。
 海外との取引が止まったこともあり、震災前を下回る業績が続く。林明博社長は「リスクは覚悟の上。『被災企業』から脱する一歩にする」と決意をにじませた。
 震災による淘汰(とうた)の波と闘う東北企業。市場の変化に即応する柔軟性とニーズをつかむ知恵が今、試されている。

タイトルとURLをコピーしました