資生堂の凋落 “おばさんブランド”返上にガガ起用、時代遅れ深刻で営業利益半減

資生堂の今年新年の広告に、米人気歌手レディー・ガガが起用された。ガガがスマートフォンなどを使って自分自身を撮った50種類の写真を、全国紙や 地方紙、業界紙など50紙に1種類ずつ載せる。新聞ごとに違うガガの表情を見ることができる。同社HPにも1月1日に4枚の写真が公開され、その後も段階 的に公開されるという。

ガガは独創的なファッションで知られ、写真共有アプリ「インスタグラム」を通じて社会への情報発信力が高い。1月 1日付紙面に掲載されたのは、いずれもインスタグラムなどに載せた写真だ。資生堂は新年の広告を皮切りに、ガガを使った広告を展開する。ガガは昨年12月 30日にツイッターで、次のコメントを発表した。

「日本にメーキャップの革命を起こすのを楽しみにしています! 資生堂と一緒に、50のセルフィーでのガガのクリエーションとメーキャップの未来をお祝いするの!」

このガガの起用は、昨年4月に外部出身者として初めて資生堂社長に就任した魚谷雅彦氏が、資生堂ブランド再生に向けて放った広告の第一弾である。

●ブランドを一斉整理

資生堂は昨年12月17日、20年度(21年3月期)までの中長期経営戦略を発表。その発表会見で魚谷氏が最優先のテーマとして打ち出したのは、ブランドの強化と若い世代の取り込みだった。

「15年4月からの3年は事業基盤を再構築するための投資を先行させる。まずブランドを強化する」(魚谷氏)

国内外の120ブランドのうち、国内を中心に売り上げ規模の小さい28ブランドを整理する。20年度までに主力ブランドで国内売上高の50%、15の重点 ブランドと合わせて同90%を稼ぐ体制にする。主力ブランドは「マキアージュ」「エリクシール」「クレ・ド・ポー ポーテ」「ツバキ」「ベネフィーク」の 5つ。重点ブランドは主にドラッグストアで売る「アクアレーベル」「専科」など15ブランド。ツバキやアクアレーベル、専科は20~30代が主な顧客層 だ。

ブランド廃止による在庫や資材費の削減効果のほか、原料調達の見直しなどで3年間に300億~400億円のコストを減らし、捻出した 資金はすべて広告宣伝などマーケティングに充てる。マーケティング費用は3年で計1000億円上積みされ、18年3月期には2400億円にする。

●国内シェア半減

資生堂の足元の業績は厳しい。15年3月期の連結売上高は、前年同期比1.0%増の7700億円を見込む。海外売上高は4030億円と4.7%増えるが、 国内は3670億円と2.7%減。消費増税前の駆け込み需要があった14年3月期を除いて、07年3月期以降は減収が続く。1980年代に3割近くあった 国内シェアは半減した。

化粧品業界の勢力図は大きく変わってきた。ドラッグストアやインターネット通販が主戦場になっているのに、全国に専門店を張り巡らせてきた資生堂は、変化に敏速に対応できなかった。結果として若者層からは「おばさんブランド」と揶揄する声も聞こえる事態となった。

15年3月期の営業利益は、前期比49.6%減の250億円の見通し。中国事業の失速で在庫が膨れ上がり、これを圧縮するために在庫引当金130億円を計 上する。中国事業不振の原因も国内と共通している。市場の変化についていけない。富裕層をターゲットにしてきた資生堂は、成長著しい中間層を取り込めてい ない。国内、海外とも、すべてはマーケティングの失敗に起因すると指摘されるゆえんである。

魚谷氏がそれを打開する武器としたのが、これまで得意としてきたマーケティング戦略だ。ブランド力の再構築により、21年3月期の売上高は15年3月期より3割多い1兆円、営業利益は4倍増の1000億円の目標を掲げる。

●経営すべてに「顧客の視点を入れる」

昨年4月1日付で社長に就いた魚谷氏は、化粧品メーカーの老舗として140年以上の歴史を持つ資生堂の再生を託された。日本コカ・コーラのトップとして、 缶コーヒー「ジョージア」や10種類の茶葉をブレンドした「爽健美茶」を大ヒットさせた「マーケティングのプロ」として高く評価されている。その魚谷氏を 前田新造前会長兼社長(現相談役)が、長期低迷が続く資生堂を再生するためにスカウトした。魚谷氏のマーケティング戦略は、広告や市場調査に限ったもので はなく、商品開発から流通まで経営すべてに「顧客の視点を入れる」ものだ。

資生堂がブランド再生のターゲットにしているのが、20~30歳代の若い世代だ。魚谷氏は前出会見で「資生堂の顧客層は年齢層が高い。シニアをないがしろにするわけではないが、将来を考えると若い世代にアプローチしなければならない」と語っている。

魚谷氏は、自著『こころを動かすマーケティング』(ダイヤモンド社)で次のように書いている。

「お客さまが変わったから自分たちも変化するというものではなく、ヒントになるような現象を見て、自分たちからその変化を先取りすることです。先回りして驚かせ、感動させることにマーケティングの面白さが潜んでいるのです」

魚谷氏は日本コカ・コーラ時代、男性向け商品にもかかわらず女性タレントの飯島直子をCMに起用して「ジョージア」を大ヒットさせた。「当時としては大胆かつ先進的なネーミングだった」と魚谷氏が自著で回想している「爽健美茶」は、若い女性に支持された。

その魚谷氏は、資生堂の広告塔として若い女性に人気の高いガガを起用した。これが資生堂ブランド再生の起爆剤になるのか。魚谷氏の最初の試金石となる。
(文=編集部)

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