赤く光るメダカ 違法拡散の始まりは13年前の「贈り物」

赤色に発光するように遺伝子改変したメダカを未承認で飼育、販売したなどとして、メダカ愛好家5人がカルタヘナ法違反容疑で警視庁に逮捕された。本来は研究目的でしか飼育が認められていない「光るメダカ」が流通したきっかけは、約13年前に1人の東京工業大の男子大学院生が友人の母親に贈った「プレゼント」だった。 【赤く発光するように遺伝子改変されたメダカ】  「自然界には存在しない珍しいメダカ。外に出したり、人にあげたりしたら絶対にだめだよ」  2009年10月ごろ、当時、東工大の大学院生だった男性(35)はそう言って、大学の研究室からこっそり持ち出した赤く光るメダカの卵計30個を友人の母親(64)に贈った。  警視庁などによると、出回ったメダカは魚のひれや骨の再生過程を観察しやすくするなどの目的で赤外線を当てると赤く発光するように遺伝子改変されていた。卵を持ち出した男性は当時、大学院で実験用に飼育している淡水魚の管理を任されていたという。  友人の母親はその後、ふ化させたメダカを知人2人に譲り渡し、さらにその知人が別の人に譲るなどして愛好家の間で拡散していった。約13年の間に、少なくとも50人の手にメダカが渡ったとみられ、「ロイヤルピングー」などと名付けられ、2匹10万円で販売されたケースもあった。  元大学院生が贈ったプレゼントは13年後、メダカ愛好家の男性5人が逮捕される事態に発展。元大学院生や、友人の母親ら4人も書類送検された。メダカは即売会などで販売されていたとみられ、逮捕された1人は警視庁の捜査が迫っていることを察知し、メダカを用水路に廃棄していた。すべて用水路内で死んだとみられるが、繁殖した場合などには生態系に影響が出る可能性もあった。  事態を重く見た文部科学省は東工大に再発防止を徹底するよう文書で厳重注意したほか、国公私立大や研究機関などに対し、遺伝子組み換え生物の適切な管理が行われているか確認を求めた。  元大学院生は、警視庁の捜査員から13年前に持ち出したメダカの卵がここまで拡散したことを知らされ「大変なことになってしまった」と驚いた様子を見せたという。  ◇1匹100万円を超えるメダカも  メダカは「光る宝石」とも呼ばれ、観賞用としても人気が高い。メダカ専門の情報サイトを運営する「めだかやドットコム」の青木崇浩代表(46)によると、熱帯魚などより飼育しやすく、繁殖も容易なことから愛好家が多い。愛好家同士の交流も盛んで、販売会や交換会などが各地で行われているという。  青木さんによると、メダカは品種改良で500種類以上が存在し、中には1匹100万円を超えるものもあるという。  海外では遺伝子組み換えにより赤やピンク、黄緑色などさまざまな色に光るメダカが観賞用として開発されている。一方、日本では研究目的などでしか扱うことが認められていない。  今回、逮捕された5人のうちの1人は、警視庁の調べに「今までに見たことのない濃い赤色で、高く売れると思った」と供述したという。  青木さんは「珍しいものがほしいという気持ちや、高く売れるのではという期待から、愛好家の間で広まったのではないか」と指摘。「愛好家一人一人がモラルを持って楽しむことが大切」と呼びかける。  生物多様性に詳しい静岡大の加藤英明准教授(保全生物学)は「遺伝子改変のメダカが自然界に流出すれば、生態系に影響を与える危険性がある。もし飼育しているメダカにその疑いがあっても、絶対に捨てたり逃がしたりしないで、まずは環境省に連絡してほしい」と話した。  遺伝子組み換えメダカに関する通報や問い合わせは、関東地方環境事務所(048・600・0516)へ。【高井瞳】  ◇カルタヘナ法  「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」の通称で、生物多様性を守るために2004年に施行された。遺伝子組み換え生物の飼育や栽培、販売を規制しており、研究室など閉鎖された場所以外で扱う場合は、生態系に影響がないことを証明し、国の承認を得ることが義務づけられている。違反すると1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される場合がある。

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