赤ワイン、ヨーグルト…実は日本人の体質に合わない食べ物 欧米人とは、体のつくりが違うんです

海外から新しい健康法が発信されると、つい飛び付いてしまう。だがそれが日本人にとっても有効とは限らない。「体質」を知れば常識が変わる―日本人に合った健康法を見つめ直す。オリーブオイル 赤ワイン 牛乳・ヨーグルト コーヒーとお茶…
健康にいいと思っていたのに!

■人種差医療をご存じですか?

昨今「地中海料理が体にいい」という話をよく耳にする。イタリアやギリシャなどの地中海沿岸地域の人が心臓病による死亡率が欧州一低いのは、オリーブオイルに含まれるオレイン酸が動脈硬化を防いでいるからと発表されたことがきっかけだ。

以来、日本でもサラダや料理にオリーブオイルを使う人が増え「オリーブオイルは健康にいい」という認識が広く浸透している。

しかし、「いくらオリーブオイルが健康にいいからといって、日本人が大量に摂取すれば、かえって心臓病や生活習慣病の発症率が上がる危険性がある」と警告するのは、『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」』の著者で内科医・医学博士の奥田昌子氏だ。

「それは、油が脂肪そのものだからです。オリーブオイルも例外ではありません。日本人は欧米人と比べて『内臓脂肪がつきやすい体質』のため、脂肪を摂取すればすぐ体についてしまい、血糖値や血圧を上昇させ、動脈硬化や心臓病の原因となります。

一方で欧米人は油を摂っても遺伝的に内臓脂肪より、皮下脂肪になりやすいので、日本人のようなリスクは少ない。そもそも日本人の『体質』は独特なのです」

「体質」は遺伝的要因と環境的要因が絡まりあってできており、人種や生活環境が違えば、当然異なる。病気の発症率も違えば、摂るべき食べ物も変わる。

そのため「人種のるつぼ」と呼ばれる米国では「人種差医療」という考えが根付いている。だが、日本は島国のためか、これまで人種による体質の違いが大きく取り上げられることはなかった。

■日本人とお酒の特別な関係

そんな中、先ごろ奥田氏が上梓した『日本人の「体質」』は、人種差の視点から日本人の健康法を導き出した斬新な医学系新書として、今注目を集めている。
奥田氏が続ける。

「日本のメディアは欧米で流行している健康法を競って紹介しますが、日本人は欧米人とは異なる遺伝子を受け継ぎ、異なる環境要因の元で生きてきました。そのため欧米人に有効な健康法が日本人にも効果があるとは限らず、それどころか有害なことすらあるのです。

オリーブオイルもその一つ。動脈硬化を防ぎたいなら『オリーブオイルは悪玉コレステロールを上げにくい』というわずかな効果に目を奪われるのではなく、内臓脂肪がつきやすい日本人は、油そのものの使用を控えるべきです。さらに言うと、オリーブオイルに含まれるオレイン酸は肝臓で合成できるので、意識して摂取しなくても健康が損なわれるようなことはありません」

オリーブオイル同様、海外で健康にいいと言われているため、日本人が積極的に摂っているのが赤ワインだ。

赤ワインに含まれるポリフェノールが悪玉コレステロールの酸化を妨げ、動脈硬化を防ぐとされ「酒を飲むなら赤ワインがいい」という説が世間に根付いている。だが「日本人は赤ワインを飲む健康利益より、害のほうが多い」と奥田氏は語る。

「実は、日本は心臓病の発症率が世界で最も低い国の一つであり、心臓病の予防を目的にわざわざ赤ワインを飲む必要はないのです。

そもそもポリフェノールは果物、緑黄色野菜、大豆など身近な食物にいくらでも入っているので、あえて赤ワインから摂取する必要はありません。それより『アルコールを摂取する害』のほうが大きい。アルコールによる発がんの問題は欧米人より日本人のほうが深刻です。

日本人の約半数はアルコールを肝臓で分解する酵素の働きが生まれつき弱く、こういう人は飲酒によって、食道や大腸、肝臓などのがんを発症しやすいことが知られています」

たとえば、食道がんと咽頭・喉頭がんを合わせると、日本人の場合、日本酒にして1日1・5合飲む人は、全く飲まない人と比べて発症率が8倍になり、1日2合以上飲む人は50倍高くなることが分かっている。ちなみに日本酒1合は、ワイン4分の1本(標準的なボトル750ml)に相当する。

「その一方で欧米白人には、アルコールを分解する酵素の働きが弱い人はほとんどいない。

欧米白人は、がんの発症原因の30%を喫煙が占めているのに対して、飲酒は3%しかありません。一方日本人は、飲酒によりすべてのがんの発症率が高まります。それくらい日本人は欧米白人に比べ、飲酒の影響を強く受ける体質を持つ人が多いのです」(奥田氏)

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■「遅延型アレルギー」に注意

骨を強くするため、毎日欠かさず飲んでいる人も多い牛乳。特に高齢になれば「骨粗鬆症」を予防するためにもカルシウムを積極的に摂ったほうがいいと思い込んでいる人は少なくない。

だが奥田氏は「実は骨粗鬆症の原因はカルシウム不足だけではなく、遺伝的要因が大きく関与している」と語る。

「日本人のカルシウム摂取量は米国人の半分ですが、骨粗鬆症の発症率は米国人のほうが2倍も高いのです。しかも寝たきりの原因となる大腿骨頸部骨折の発生率とカルシウム摂取量を国・地域ごとに比較したところ、信じられないような結果が出ました(左上表を参照)。

なんと『米国、ニュージーランド、スウェーデンなど、1日当たりのカルシウム摂取量が多い国ほど、大腿骨頸部骨折を起こす人の割合が高かった』のです。

それに比べ、香港やシンガポールはカルシウム摂取量が少ないにもかかわらず、骨粗鬆症になる人は少なかった。この報告は『カルシウム・パラドックス』として世界を驚かせました。

さらに’15年に公表された海外の論文では、食事からのカルシウムの摂取量と骨折の発生率には関連がないと結論づけています」

牛乳に関しては「乳糖不耐症」の問題もある。乳糖不耐症とは、牛乳に含まれる乳糖を分解できない体質のこと。牛乳を飲むとお腹を壊しやすい人がいるのはそのためだ。

日本人を含む大部分の黄色人種とアフリカ系の人、そして白人でも地中海沿岸の人々の7~9割は乳糖不耐症とされている。これに対し、北欧や西欧の白人には1割ほどしかいない。

「牛乳を飲む習慣は欧米から日本に伝わりました。しかし、こう見てくると、日本人の体質に牛乳が合っているかは疑問です。

さらに、日本人男性4万3000人を対象に実施された調査では『乳製品の摂取量が増えるほど前立腺がんの発症率が上がる』という結果も出ている。カルシウム源として牛乳にこだわる必要はなさそうです」(奥田氏)

同じく乳製品で腸内環境を良くするイメージのあるヨーグルトも、日本人が食べ続けると食物アレルギーを発症することがあるという。

奥田氏が続ける。

「食物アレルギーには、いくつか種類があり、食べた後すぐに蕁麻疹や腹痛、呼吸困難などが起こる『即時型』と、数日経ってから発症する『遅延型』があります。

この『遅延型』アレルギーはめまいや抑うつ、下痢、肌荒れなど症状が多彩なことから、診断が難しく、疲れやストレスのせいと勘違いしたまま症状に苦しむ人が少なくありません。

この遅延型は、ヨーグルトなどの乳製品が原因になりやすいとされ、頻繁に食べると発症率が上がります。しかし、皮肉なことに、食べている人は体に良いと信じているので、ヨーグルトのせいで体調が悪くなっていることになかなか気づかないのです」

元々、乳製品は健康に良いという考え方は欧米から入って来たもので、日本人にとって本当にそこまで摂る必要があるのかは疑問になってくる。

「近年、日本、欧米、中国など12ヵ国から合わせて750人が参加し、腸内細菌と、腸内細菌が持つ遺伝子を国ごとに比較する研究が行われました。その結果、日本人の腸内は欧米と比較してビフィズス菌をはじめとする善玉菌が多く、悪玉菌が少ないという結果がでたのです。

近ごろは腸の善玉菌を増やす効果を謳う健康食品が花盛りですが、日本人は心配し過ぎかもしれません。アレルギーのリスクを負ってまで、無理して乳製品を摂る必要はないと思います」

■アジア人はコーヒーが苦手

ダイエット効果があり、リラックスも促すとして、お茶やコーヒーを積極的に飲んでいる人も多い。だが意外にも日本人は遺伝的に「カフェイン」によって情緒不安定になる体質を持っている人が少なくないという。

「カフェインを摂取し過ぎると、頭痛、不安、抑うつ、不眠、嘔吐、下痢などを起こすことは世界的に確認されていますが、元々日本人を含むアジア人は、カフェインで不快な症状が起きやすいタイプの遺伝子を持つ人が半数にのぼります。

特に日本人の4人に1人はカフェインを150mg摂取するだけで不安定な気持ちになると言われている。

これに対して、欧米白人やアフリカ系の人、同じアジアでも中国人は、カフェインが合わない人は少数派です。

緑茶やコーヒーに入っている有効成分はごく微量なので、飲むだけでコレステロールや血糖値が改善するとは考えにくい。さらにカフェインには利尿作用があるため、水分の排泄が増えて体重は減りますが、それは水分が減っているだけ。脂肪が落ちているわけではありません」(奥田氏)

カフェインはあくまで嗜好品であり、日本人にとっては、健康のために飲むものではない。それどころか害をもたらすこともある。

管理栄養士の梅原祥太氏もこう語る。

「カフェインを摂りすぎると副腎という臓器が疲労します。副腎はストレスに対抗するホルモンを出す臓器で、副腎が疲労すると倦怠感、無気力にも繋がります。
緑茶は1杯約30mgのカフェインが含まれていますが、コーヒーはその3~7倍あるので、日本人の体質を考えれば、1日2杯くらいに留めておいたほうがいいでしょう」

体質を知れば食べ物が変わり、健康法も変わる―次は「欧米生まれの健康法」の問題点について見ていこう。

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