赤外光を吸収する透明な太陽電池 窓ガラスへの利用に期待、阪大などが開発

太陽から降り注ぐ光エネルギーの半分近くを占める赤外光を吸収して発電する透明な太陽電池の開発を、大阪大学産業科学研究所の坂本雅典教授(光化学)らのグループが進めている。既存の黒い太陽電池が設置できない窓ガラスなどへの利用が期待される。変換効率や大面積化の課題を解決したうえで、2025年に手のひらサイズの電池を試作し、2030年には発電する窓ガラスをサンプル出荷するのが目標という。

見えない光でナノ粒子から電子を取り出す

 太陽電池の基本構造には、光を吸収する層や電子を取り出す層、電子を受け取る層があり、光エネルギーを電気エネルギーに変換することができる。現在一番普及しているのは、シリコン半導体を用いたシリコン系太陽電池。可視光から電気を生み出す。光から電子を取り出す変換効率は20%を超えるものが市販されている。大規模に黒い大型パネルを並べている発電所を見かけることも多い。

 シリコン系太陽電池に代わりうるとして開発が急速に進むのが、ペロブスカイト太陽電池だ。材料をフィルムなどに塗布・印刷して作ることができ、低コストでの製造が期待されている。ほかにも、低環境負荷、低コスト化が期待できるものとして、有機半導体の薄膜を発電層として用いた有機薄膜太陽電池があり、柔軟性や半透明性が生かせるものとして色素増感太陽電池も開発が進む。

赤外光を局在表面プラズモン共鳴(LSPR)材料に当てるとエネルギーを持った電子e-(熱電子)が生まれる(大阪大学産業科学研究所の坂本雅典教授提供)

 一方、坂本教授らが開発しているのは、ナノ粒子に光を当てると粒子中の電子が集団で振動する「局在表面プラズモン共鳴(LSPR)」を利用した太陽電池。可視光より波長が長く目に見えない赤外光を、特殊なドーピングを施した半導体ナノ粒子に当てて電子を取り出す。

世界最高効率の光触媒から転用

 今年4月に大阪大学に移った坂本教授は、京都大学化学研究所に着任した2012年から赤外線のエネルギー変換を研究している。赤外光は太陽から降り注ぐ光の42~46%を占めており、エネルギー資源としての潜在能力は高い。熱線として地球温暖化の原因になるため、「利用すること自体が温暖化防止につながる」という。

 坂本教授らは、LSPRを示す金属硫化物のナノ粒子に波長1.1マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルの赤外光を当てると、光触媒として当時世界最高の効率で水素が生成することを発見している。

スズドープ酸化インジウムナノ粒子を含む溶液(左)と透過型電子顕微鏡画像(大阪大学産業科学研究所の坂本雅典教授提供)

 光触媒の実験で学生が「赤外光を当てても見えにくい」と話すのを聞き、坂本教授は「見えないというのは透明ということ。発見した光触媒を太陽電池に転用したら(黒い)シリコン系の太陽電池と差別化できる」と考え、2019年、同じくLSPRを示すスズをドープした酸化インジウムナノ粒子を光吸収材に応用すると透明な太陽電池をつくることができると発表した。

熱線遮蔽シートを今夏にも先行発売へ

 LSPR材料による透明な太陽電池を実用化するため、坂本教授らは2021年に京都大学発ベンチャー企業「OPTMASS」(京都府宇治市)を創業。変換効率は、カドミウムと硫黄、あるいは銅と硫黄を含むナノ粒子をLSPR材料として使うと1.1マイクロメートルの赤外光を当てた際に4.4%まで上がることを2022年に発表した。

 現在、材料などを改良し、変換効率は6%ほどまで上がってきている。ただ、可視光や紫外線も含む太陽光を当てたときには1%程度まで下がってしまうため、改良の余地は大きい。

 また、実用化には窓ガラスサイズなど、大面積の太陽電池にすることが求められる。一部でもピンホールがあると、発電量が大幅に低下するため、太陽電池の大面積化には、材料であるナノ粒子を広く均一に伸ばす技術も求められる。

 LSPR材料には戸外から室内に入る熱線を遮蔽する効果もある。OPTMASSはLSPR材料による熱線遮蔽シートを今夏にも先行発売するべく、開発を進めている。試作品を見ると、シートは透き通っているが少し緑色かがっていた。OPTMASSが掲げる「街を森に変える」という目標を感じさせる緑色だった。 長崎緑子/サイエンスポータル編集部

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