ファーストクラス──。そこは、搭乗者のうちたった3%の人間しか立ち入ることのできない“知られざる世界”である。そんな特別な空間で、真のビジネスエリートたちが見せる素顔とは……。そして彼らにとってはごくごくあたり前の習慣、「気遣い」とは……。
よく、「お金持ちは、高級ブランドの長財布を使う」と言われているが、日系、外資系航空会社のCA(キャビンアテンダント)として、ファーストクラスで数多くのVIP客へのサービスを担当してきた美月あきこ氏はこれには疑問を感じるという。
「ファーストクラスの常連であるビジネスエリートの方々が多く使っていたのは、二つ折りのシンプルな財布です。特定のブランドにこだわっている様子はなく、使いやすさ、スーツの内ポケットにスマートに入る大きさを重視しているようでした。もちろん、財布がお札やカード類でパンパンになっていることはありませんでした」
財布がスッキリ薄いのは、現金を必要以上に持ち歩かず、カードで支払うスタイルが定着していることもあるだろうが、ちまたに広がる「二つ折り財布(お金を折る)では、金持ちになれない」というジンクス(?)は、ファーストクラスに乗る超一流ビジネスエリートたちには当てはまらないようである。
「ビジネスクラスやエコノミークラスほど、ブランドロゴが全面に刻まれた財布をお持ちの方が多いですね」
ビジネスクラスではとくに「頑張っている自分」を主張したがるビジネスマンが多いのだろうか。
使い切れないほどの機能がついたシステム手帳、分厚いブランド財布を持ち歩き、つい「仕事ができるオレ」「経済的にも余裕があるオレ」をアピールしてしまうように思える。
仕事における酸いも甘いも経験し、ファーストクラスを利用するに至っている超一流のビジネスエリートたちにとっては、もはや「人からどう見られるか、どう見せるか」よりも、「自分がどうなのか」にこだわりがあるのである。
美月氏によると、ファーストクラスの顧客がこだわりを見せるのは、むしろ財布よりも“靴”だと語る。
「靴は、いつもピカピカに磨かれています。リペアされ大事に使用されているのもわかります。搭乗後、みなさんプリセットされているスリッパに履き替えられますが、脱いだ靴の置き方に見事に共通点がありました」
ビジネスエリートたちは、脱いだ靴をキレイに揃え、邪魔にならないよう、人目につかないよう通路から遠い位置に置くのだそうだ。
「揃えて置くのは、日本人として躾けられたなら当然だ」と、思う人もいるだろう。しかし、このマナーができていないビジネスマンは案外多いのも事実だ。
居酒屋の宴会場の上がり口に、くたびれたビジネスシューズが散乱している光景に見覚えのある人もいるだろう。現にエコノミークラスでは、脱いだ靴が通路に転がっていることも多いという。
「ある高級旅館の女将にお聞きした話ですが、靴の脱ぎ方、上がり方でその人の人となりがわかるのだそう。やはりビジネスでトップに上りつめた方々は、脱ぎ方もきちんとされているそうです。ファーストクラスの方々も例外なく、きちんと脱がれ、しかも靴の中が見えないように、あらかじめスリッパと一緒にご用意しているミニ靴ベラやシューズクロスでわざわざ隠してから、奥に置かれます」
足の裏は汗腺が集中している部分でもある。目に見えずとも汗や脂で汚れているのは当然だ。その汚れを他人に晒すのは失礼と思う感覚さえも、ビジネスエリートたちに共通しているのだ。
「足元を見られる」とはよくいったもの。靴の状態や扱いいかんでその人物の印象が左右されるのだ。
「コートや上着も座席の背もたれにはかけず、CAがハンガーにかけやすいようにと、わざわざ向きを変えて持っていてくださったり、渡してくださいます。クルーへの気配り同様、ご自身の衣類を大事になさる姿勢にいつも感心させられました」
日頃使用するモノへの愛着とこだわり、そして丁寧な扱いは、ビジネスエリートの証しのようだ。
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CA-STYLE主宰美月あきこ(みづき・あきこ)
日系、外資系航空会社の国際線キャビンアテンダント(CA)として活躍後、女性の転職・就職を支援する会社CA-STYLEを立ち上げる。人財育成コンサルタントとして、現在も全国各地で講演・研修を行う。著書に、12万部のベストセラー『ファーストクラスに乗る人のシンプルな習慣』などがある。
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(文=戌亥真美 コメンテーター=CA-STYLE主宰 美月あきこ 撮影=荒井孝治)