宮城県南三陸町特産の養殖ギンザケを「南三陸サーモン」と称して独自メニューを提供するプロジェクトが、春から町内で展開されている。町観光協会が主導し、新しい仕入れルートを設けたことで扱う事業者が増加。観光資源に育てるには業種の垣根を越えた一体感を高める必要がありそうだ。
(気仙沼総局南三陸分室・高橋一樹)
仕入れルート確立 地元で扱う業者増加
脂の乗ったギンザケの漬け丼にあぶり丼、押しずし、コンフィ、コロッケ…。4月中旬、南三陸さんさん商店街であった試食会には多彩な新メニューが並んだ。プロジェクトには飲食店や加工業者、宿泊施設など町内約30の事業者が参画し、水揚げの続く7月まで「南三陸サーモン」を冠したメニューを提供する。
さんさん商店街の「創菜旬魚はしもと」店主で観光協会食の魅力プロモーション部会長の及川満さん(49)は「『ギンザケ』より『サーモン』が幅広い年代に浸透している。町を挙げてサーモンをうたうことで、より多くの人に食べに来てもらえる」と期待する。
養殖ギンザケは南三陸の志津川湾が発祥地とされる。幾度かの価格下落や東日本大震災に見舞われながら、飼料の品質向上もあって漁師は生産を拡大。昨季は総量・取引金額とも震災後の最高を記録し、町の水産業の稼ぎ頭に成長した。
ただ水揚げの大半を町内二つの加工業者が仕入れて全国に出荷するため、地元でギンザケを買ったり食べたりできる場所が少なかった。観光協会が1~2月、来町した観光客に実施した「南三陸の食材といえば」というアンケート(約400人回答)の上位はタコやカキ。ギンザケを選んだ人は15%程度だった。
プロジェクトでは町や観光協会が2加工業者の理解を得て、町内の別の業者が県漁協志津川支所を通じて一部を仕入れ、希望する業者に卸す新ルートを設けた。このルートで仕入れを始めた飲食店主は「やっと地元のギンザケを出せるようになった」と歓迎する。
課題は知名度向上 垣根超えて一体感必要
一方、取り組みには温度差もある。南三陸サーモンの名称は「お客さんに選んでもらえるようになった」「一昔前の生臭いイメージを払拭できる」とおおむね好評だが、「おいしければ名前は関係ない」とメニュー名に使わない店も。
宿泊施設では新ルートで仕入れて独自メニューを出すところもあるが、広がりを欠く。ある民宿の経営者は「地元の旬の味、と堂々と話せるようになった」と喜びつつ「南三陸サーモンを食べたいという問い合わせはまだない」と知名度向上が課題との認識を示す。
町の主力だった秋サケは近年不漁で、南三陸サーモンの名称には「これからはギンザケ」という覚悟も込められている。町観光協会の及川吉則会長(56)は「ギンザケの価値を高め、町の多くの業種が潤う形にしたい」と先を見据える。