辞めません、でも頑張りません――「新・ぶら下がり社員」現る (ITmedia)

【集中連載】「辞めません。でも、頑張りません」。そう考える30歳前後の社員が増えている。そんな彼らのことを筆者は「新・ぶらさがり社員」と呼ぶ。目的がないゆえに、会社では時間を「潰す」ことに明け暮れ、常に70%の力で仕事に取り組む。そんな彼らの実態に迫る。
 先日、入社して7年目になるメガバンク勤務の女性と話したときのことである。
 「あなたにとって仕事とは何ですか?」
 人生の命題ともいえる質問をぶつけたところ、「うーん、お小遣い稼ぎのアルバイトみたいなものかな」と彼女は軽く答えた。
 私にとってこれは、かなり衝撃的だった。
 この女性をAさんとしよう。
  Aさんはもともと大学では建築を学び、卒業後は不動産会社に就職した。本当は設計を手掛けたかったが、実際には営業に回ったり、登録や申請の手続きをしたり、引越しまで手伝わされたりと、望む仕事ではないので次第にやる気を失っていった。プライベートで結婚したという事情もあり、勤務条件や収入が安定しているメガバンクに転職したのである。
 銀行では住宅ローンに関する業務を行っている。
 Aさんいわく、Aさんのいる部署は「銀行の墓場」。左遷されたり、銀行を定年退職した人が腰かけ程度にいる部署である。仕事はほとんどないので、まわりもみなダラダラと過ごし、トイレに行ったまま1時間帰ってこない人もいるのだという。
 そんな部署で働いていたら、身も心も腐りきってしまうだろう。不満が爆発するのかと思いきや、「仕事や会社に求めることはありますか?」と尋ねたら、彼女は「現状維持でいい……」とポツリと答えたのである。
 「仕事はつまらない」「適当にやればいい」「私は向上心がないから」と、Aさんはネガティブな言葉ばかりを繰り返す。話を聞いているこちらまで気が滅入り、疲れてしまった。
 まだ30歳だというのに、この「あきらめ感」は何だろう。仕事がつまらなくても、会社の環境を改善しようと思わない。与えられた仕事はこなすが、それ以上は何もしようとしない。つまり、給料さえもらえればいい。まるで定年間近の社員のようである。
 私は、Aさんが特殊な例だと思ってはいない。Aさんのように問題のある職場ではなくても、多くの企業で30歳前後の社員がAさんと同じようにあきらめた社員になっている。
 会社は辞めない、けれども仕事は頑張らない。
 仕事に対するやる気はない、けれども与えられた仕事はこなす。
 与えられた仕事はやる、けれども管理職になって責任を負うのは嫌だ。
 私はこのような傾向の30歳前後の社員を「新・ぶら下がり社員」と呼んでいる。
 数年前まで、企業の経営者や人事担当者からよく聞いたのは、「今の若者はすぐに会社を辞めてしまう」という悩みだった。入社して3年に満たない社員が辞めてしまう、30歳前後のこれから組織の中核を担う中堅社員が転職するといった人材の流出に頭を悩ませていた。
 その後、リーマンショック後の不景気によって転職市場は冷え込み、失業率は上がり転職したくてもできなくなってしまった。人材の流出に歯止めがかかり、胸をなでおろしている企業も多いだろう。
 しかし安堵したのもつかの間、ここで新たな問題点が浮上してきた。それが新・ぶら下がり社員の出現である。
●新・ぶら下がり社員の特徴
 「いつの時代にもぶら下がり社員はいたではないか」と思う人もいるだろう。
 確かにそのとおりで、昔からぶら下がり社員はいた。
 会社に来てもまじめに仕事をせずにぐうたら過ごし、遊びには熱心で、17時になるとさっさと遊びに行くような、『釣りバカ日誌』のハマちゃんのようなタイプである。
 今まではこういうタイプは50歳を過ぎ定年退職が近くなった社員に多く見られた。何十年も働いてそれなりに成果を出してから部下に丸投げして楽をしているのか、ポストに恵まれないまま会社人生を終えそうなので腐っているのか、どちらかだろう。いずれにせよ、少数派だったので会社側も目をつむっていられた。
 本書の対象となる新・ぶら下がり社員は、ハマちゃんのようなやんちゃなタイプに比べればおとなしく、まじめである。上司にとっては扱いやすいありがたい部下でもあるだろう。そこに落とし穴がある。
 新・ぶら下がり社員は、次のような問題点を抱えている。
仕事は70%主義
 繰り返すが、新・ぶら下がり社員はいいかげんではなく、むしろまじめである。
 与えられた仕事はきちんとこなすし、遅刻やサボリもなく、残業も必要であればする。上司の言うことは素直に受け入れ、逆らったりはしない。一見、従順な社員である。
 この与えられた仕事はこなすというのが厄介なのである。
 例えば営業担当に「今月は先月より新規顧客を5件増やせ」と指示を出したら、その指示を従順に受け入れ、新規顧客を増やそうと行動し始める。
 問題は、言わない限り動かないという点である。自分から仕事を増やそうとも、仕事のハードルを上げようともしない。新しい提案などはまったくしない。いつまでたっても受身のままである。
 しかも最短距離で達成する方法を選び、困難な方法は避けて通る。リスクやトラブルを避けるのは賢い選択のように思えるが、成長が止まり、思考も止まる。自分の頭で考えられない社員になっていくのである。
 これは、そこそこできていればいいと70%の力しか出さないから起きる現象である。頑張っても頑張らなくても給料は同じなら、そんなに頑張らなくてもいいだろうと、30%分の力を出し惜しみする。決して仕事の能力がないわけではなく、むしろ能力はあるのに押さえ込んでいる場合が多い。
 あきらかに仕事の手を抜いているのなら注意しやすいが、そつなくこなしている場合、育成する側も困るだろう。
上にも横にも行かない
 新・ぶら下がり社員は、冒頭のAさんのように現状維持を望んでいる。
 つまり昇進(上)を目指すわけではなく、転職(横)をするわけでもない。
 昇進すれば仕事も増え、責任も重くなる。いままでは、ステップアップにやりがいを感じ、いつまでも部下としてマネジメントされるのではなく、マネジメントする側に回りたいと考えるのが自然な流れだった。
 それをやりがいではなく、重荷に感じるのが新・ぶら下がり社員である。人を育成するのは面倒、責任を取るのは嫌だとネガティブにしかとらえない。昇進を約束しても、拒否する可能性もある。
 そして今の職場に満足はしていなくても、転職もしない。この不景気では社員を募集している企業も少なく、転職できても今より悪い待遇になる恐れもある。リスクを冒したくないから今の会社にとどまっているという消極的な理由なのである。
プライベートを優先する
 残業や休日出勤を嫌がり、上司が頼んでもきっぱりと断る人がいる。残業代や休日出勤手当てを満足に出せないのなら嫌がられても仕方ないとは思うが、支払われるのに嫌がるのは、自分の時間を持ちたいのが理由だろう。仕事に熱意を注げないから、プライベートに入れ込むのである。
 最近は、総合商社に勤務している人の中でも、海外への転勤を断る社員がいるという話をよく聞く。これでは何のために総合商社を選んだのか分からない。家庭を持ち保守的になっているのかもしれないが、仕事でのチャンスを逃すのを惜しいと思わないのは、仕事にそれほど生きがいを感じていないのだと考えられる。
次回以降は、新・ぶら下がり社員とどう向き合い、課題を解決していくかを探っていく。【吉田実,Business Media 誠】

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