逆転バラエティー増加、時代劇衰退で“代替機能”の一面も

苦境に陥っていた主人公が、あるときを境に攻勢に転じる…。今、バラエティーを席巻しつつあるのが“逆転バラエティー”だ。月曜20時は『痛快TV スカッとジャパン』(フジテレビ系)、さらに月曜22時は『逆転人生』(NHK総合)、木曜19時は『THE突破ファイル』(日本テレビ系)と各局花盛り。その理由とは? バラエティー界の新潮流の背景を探る。

【写真】ウッチャン妻・徳永有美さん 目立つ艶やかな薄紅色の着物姿

『スカッとジャパン』は今年で5年目を迎える人気番組。身の回りにいる身勝手な人たちによって「ムカッとした」ことに対し、機転やアイディアによって「スカッとした」話を募集し、それらをショートドラマ化して紹介するバラエティー番組だ。

 司会はウッチャンナンチャン内村光良。その安定した仕切りとともに、準レギュラーのパネラーである陣内智則や、千鳥との掛け合いも楽しい。視聴率もフジテレビにあって10%を記録する日も多い。
 
『逆転人生』はドン底を経験した主人公の奇跡の“逆転劇”を追うドキュメントバラエティー。再現ドラマ部分は「自伝的」な作りになっており、「わたし」が主人公。視聴者もその人の気持ちになって追体験できるようになっている。4月1日の初回は、特許裁判で巨大IT企業アップルに勝ち、3億円の賠償金を手にした個人発明家・齋藤憲彦さんの逆転人生を描いていた。

『THE突破ファイル』は、『スカッと』と同じく内村が司会。あらゆるジャンルで実際に起きた、ひらめきと執念の突破劇を再取材。再現ドラマとクイズで紹介している。1998年長野冬季五輪の開会式場を彩った航空自衛隊ブルーインパルスの知られざる突破劇は大いに話題を呼んだ。

 また最近は『奇跡体験!アンビリバボー』(フジテレビ系)も、アイディアでピンチを脱した物語を頻繁に特集するようになっていて、4月から土曜22時台に昇格する『激レアさんを連れてきた。』(テレビ朝日系)も、人生がドン底から好転した人物を紹介している。

◇時代劇の衰退でも変わらない「勧善懲悪」への憧憬
 
 こうした“逆転バラエティー”が増えている背景にはどんなことが考えられるのだろうか。『スカッとジャパン』スタート当初、司会の内村は「目指せ!!ポスト水戸黄門!!」を声高に主張していた。これを掲げた意図は、裏番組で1969年から2011年まで足かけ約42年放送されてきた時代劇『水戸黄門』の放送年数を目指したいというものからであった。

 だが、この『水戸黄門』に近づく、という思いは図らずも番組の趣旨にもあてはまる。三戸光圀が越後のちりめん問屋のご隠居という仮の姿で諸国を漫遊、追手に囲まれて絶体絶命のピンチのときに「印籠」を差し出して危機を切り抜けるという”お約束”は、『スカッとジャパン』に出てくる市井の人々が、身勝手な人たちを機転で懲らしめる姿にも重なる。
 
 他の「逆転番組」も、形は変わるが、立ちはだかる壁や強敵をどう攻略するか思案し、それを突破している。その爽快感は、『水戸黄門』で格さんが印籠を出す瞬間や、遠山の金さんが背中の桜吹雪を見せるときの痛快さにも似ているのだ。「時代劇」が衰退する中、視聴者が留飲を下げる代替機能を果たしているとも言えよう。

◇ドラマも「難局を乗り切る」作品がウケる

 今、数字が取れる三大ドラマといえば刑事、弁護士、医師であることは疑いようもない事実である。刑事が対峙するのは憎き犯人であり、さらには難事件だ。弁護士は、誰もがさじを投げるほどの形勢不利な案件を担当し、医師はわずかな生存率の患者の命を救う…。つまりはドラマの序盤に、どれだけ大きな難局があるかを描くことが、視聴者の興味を惹くための重要なポイントなのだ。それが引っ張りとなり、推進力となり、その後を見続けるモチベーションとなる。

“逆転バラエティー”もその法則に基づき、壁が高ければ高いほど、敵が大きければ大きいほど、それをクリアしたとき、視聴者の拍手喝采も大きくなる。

 もちろん、物語の主人公にとっても、人間としての強さが試される瞬間であり、感情が剥き出しになる場面であろう。そんなある種、泥臭い人間模様を描く番組は、よりスマートに、便利になった今の時代にこそ求められるソフトなのではないだろうか。

 平成が終わりを迎える今、新たな時代への希望とともに、将来の生活についてなどさまざまな不安は絶えない。そんな漠たる不安を一瞬でも消し去ってくれるということからも、今後も“逆転バラエティー”は増えていくかもしれない。(芸能ライター・飯山みつる)

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