週刊誌「冬の時代」にスクープ連発

出版科学研究所が年明けに発表した昨年の週刊誌の販売額は前年比13.6%減と大きく落ち込んだ。読者の高齢化やネットとの競合といった逆風下で、 政界や芸能界のスクープを連発する「週刊文春」(文芸春秋)と、出版社系週刊誌の先駆けで今年創刊60年を迎えた「週刊新潮」(新潮社)が独自の報道で存 在感を示している。両誌の編集長に「冬の時代」に挑む戦略を聞いた。

文春 スクープこそブランド

「『本当に読みたいものであれば売れる』と再認識できたのは大きい」と手応えを語るのは週刊文春の新谷学編集長(51)だ。

販売部数は約41万6千部(昨年上半期)。総合週刊誌では11年連続でトップを守るが、市場の縮小に合わせるようにこの5年で15%ほど減っている。ただ 今年は甘利明前経済再生担当相の金銭授受問題などのスクープ効果で、すでに3冊が完売。報道への信頼が高まり情報提供が増えるという好循環が生まれてい る。

新谷さんが編集長に就いたのは平成24年4月。〈スクープではもう売れない〉〈頭を使った健康特集や資産防衛特集で手堅く数字を稼ぐ べきだ〉…。雑誌冬の時代に、そんな助言をくれる人もいた。「『省エネでつくれ』という考えにも一理はある。でも、この雑誌のブランドとは?と考えると 『世の中を驚かせるスクープが飛び出すこと』に尽きる。武器を磨けば全メディアの中で屹立(きつりつ)した存在になれると信じてやってきたのが今につな がっている」

スマートフォンなどとの時間の奪い合いが激化する中、ウェブ展開も喫緊の課題だ。有料の電子版「週刊文春デジタル」の会員は 6千人を超え、雑誌の読者層と重ならない20〜30代の加入者も多い。電子版限定コンテンツもあり、不倫疑惑が報じられた「育休議員」宮崎謙介前議員への 取材動画をアップした際は加入者が急伸した。「調査報道をビジネスとして成立させないと質は保てない。『文春が書いているから本当だろう』という読者の信 頼は最大の財産。今をチャンスととらえてコンテンツビジネスを本格化させたい」と次の一手を探る。

最近は不倫疑惑を報じられた芸能人が ネット上で激しいバッシングを受けることも。そのため「世間の受け止め方には常に気を使いながら」誌面作りを進める。「報じるべきは権力者の不都合な真実 であり『へえっ』と思える公衆の関心事。根底にあるのは人間への興味ですね。人間って愚かで醜くてくだらない面もある一方、かわいらしかったりすばらし かったりするわけで、すごく面白い。そういういろんな顔を伝えていきたい」

新潮 大人の美意識貫き60年

「進取の精神は大事だが、時代の波に洗われてリニューアルするよりも、あえて変えない勇気を持ちたい。新潮らしい大人の雑誌でありたいと思っている」。昭 和31年に出版社系初の週刊誌として創刊した週刊新潮の酒井逸史編集長(50)はこう話す。平成21年に編集長に就任した際、「中身は変えますが、外観は 古い古民家のままでいきましょう」と部員に語りかけた。

「大人が読むに足りる誌面を作るのが使命。先代の編集長たちの言葉を借りると『偉大なる常識人でありたい』と。そのためには既存の常識に挑まなければならないときもあるし、非常識とされることをすくい上げなければならないこともある」

その言葉通り、1年前には川崎中1殺害事件の加害者、18歳少年の実名と顔写真を掲載し、物議を醸した。今年3月31日号では、夏の参院選に自民党が擁立 を検討していた乙武洋匡(ひろただ)氏の不倫をスクープ。障害者と性という難しい問題に切り込んだ。「週刊誌は新聞が書けないことを書く本音のメディア。 われわれは三十数人の少ない人数でゲリラ的に動く。時々は大きなニュースを手に入れるが、『所詮週刊誌の記者がやっていることは“大きなお世話”。天狗に なるな』と先輩から肝に銘じられた」とスクープの高揚からも距離を置く。

初代から数えて6代目の編集長。他誌に比べ、1人の就任期間が長 く、創刊以来の伝統が伝わりやすい環境がある。当時の重役、斎藤十一さんの持論から「金」「色」「権力」に鋭く切り込むが、誌面でスクープと打たないのは 「大人は、そういうことで騒がない」との矜持(きょうじ)と美意識からだ。

販売部数は31万部強(昨年上半期)で、ライバル誌、週刊文春 との差が開くが「独自の道を行くのが伝統。必要以上に意識をしない意識を持っている」と話す。デジタル対応についても同様だ。編集長就任の翌年の22年、 海外の読者向けにいち早く電子版を発行したものの国内向けは昨年10月のNTTドコモの「dマガジン」への参画のみ。「紙の読者を大切にしたい」と泰然自 若の編集方針を貫く。

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