企業倒産は政府のコロナ関連支援策で小康状態が続くが、道路貨物運送業の倒産が止まらない。道路貨物運送業の倒産は一足早く2021年度から増勢に転じ、2022年は5月までの累計が94件に達する。これは前年同期の1.4倍増だ。この背景にはドライバー不足、燃料費高騰、進まない運賃への価格転嫁など、業界の構造的な問題がある。さらにドライバーの時間外労働を年間960時間に規制する「2024年問題」が迫っている。2024年を前に、崖っぷちに立たされる道路貨物運送業の現状に迫った。(東京商工リサーチ情報部 松岡政敏)
コロナ禍の受注減で資金繰り悪化 燃料高がとどめを刺したSEHIRO
一般貨物運送業の(株)SEHIRO(セヒロ、大阪府門真市)が4月25日、大阪地裁から破産開始決定を受けた。負債総額は債権者184人に対し、18億6600万円。中小企業の倒産が中心を占める道路貨物運送業では、2022年の最大の倒産となった。
同社は一般貨物運送を軸に、大阪市や兵庫県で倉庫業を手掛け、発送代行サービスも行っていた。荷主は大手企業が中心で、関東や九州にも支店を開設し、受注が堅調だった2021年1月期の売上高は9億4918万円に達した。
だが、業容拡大を急いだ裏側で増員や増車などへの投資に資金が追いつかず、余裕を欠く資金繰りを金融機関からの借入でしのいでいた。コロナ禍で受注が落ち込むと実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)を受けたが、かさんだ借入金で返済が重荷になり、2021年11月、金融機関に返済猶予(リスケジュール)を要請した。
まさに火の車状態に陥り、人員削減や減車などの合理化を急いだが、追い打ちをかけるような急激な原油価格の高騰に見舞われ、燃料費負担がとどめを刺して資金繰りに行き詰まった。最近の典型的な道路貨物運送業の倒産事例といえる。
2022年5月の道路貨物運送業の倒産は、3カ月連続で前年同月を上回った。そのうち、「新型コロナ」関連倒産は、2022年1~5月累計が28件(前年同期13件、115.3%増)に達する。ここまでコロナ関連の金融支援で倒産が抑制されてきたが、次第に息切れが中堅クラスまで広がってきた。
業界規模は拡大するものの 5社に1社が赤字の苦境
貨物自動車運送の事業者数は、1990年の貨物自動車運送事業法の施行で規制緩和され、新規参入が増えた。2008年度以降は新規参入と退出事業者数がほぼ拮抗(きっこう)し、約6万2000社でほぼ横ばいで推移する(国土交通白書2021)。
一方、東京商工リサーチが調査した全国の道路貨物運送業者(2万6698社)の最新決算(2021年1月~12月期)の売上高合計は、21兆6823億5700万円(前期21兆4274億6500万円、前期比1.1%増)と微増を見せた。
ただ、売上高の微増をそのまま業界の姿としてうのみにはできない。コロナ禍の外出自粛を追い風に拡大したEC市場の恩恵は、大手運送業者に偏っている。
業界全体では宅配貨物需要が押し上げ、売上高は2期連続の増収となった。収益は最終損益が判明した1万5525社の利益合計が4089億8400万円(前期3857億3200万円、前期比6.0%増)で、業界全体では増収増益だった。ただ、コロナ前から次第に赤字企業の割合が高まっており、最新期では21.7%の企業、つまり5社に1社が赤字だ。
国土交通省が発表した2020年度の宅配便実績は、コロナ禍の巣ごもり需要を受け、48億3670万個(前年度5億1298万個、11.9%増)と大きな伸びを見せた。宅配便はヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の3強がそろって取り扱い個数を伸ばし、好調ぶりが鮮明だ。
一方で、中小業者の実績も含まれる2020年度の国内自動車貨物輸送量は、コロナ禍による物流の停滞で、2134億1900万トンキロ(前年度比15.1%減)に落ち込んだ。
同じ業界内でも、何を取り扱うか、どこから受注を得ているかによって事業環境が異なる。総じて、大手と中小では荷物取扱量に差が広がっており、2021年の道路貨物運送業の減収企業は増収企業の1.4倍も多い。1社当たりの売上高は減少し、大手企業と中小企業の業績格差の広がりを意味している。
運賃への価格転嫁が進まない中で 公取委が荷主に立ち入り調査
貨物自動車運送業は荷主の下請けの位置付けにある。それだけに運送業界が下請け構造から脱皮し、価格転嫁することは容易でない。燃料価格の高騰について、国土交通省は燃料サーチャージ制度の導入を推奨するが、実際に導入している企業は多くない。中小企業の多くは荷主である親事業者との交渉力が弱く、燃料費が高騰しても簡単に運賃引き上げを要請できないのが実情だ。
運賃への価格転嫁が進まない状況を受け、公正取引委員会が動いた。6月3日、道路貨物運送業など22業種に対し、人件費や原材料費、燃料費の上昇分の価格転嫁を拒否する事案の有無を緊急調査することを明らかにした。
関係事業者に対し、具体的な懸念事項を明示した文書を送付し、2022年中をめどに調査結果を取りまとめる予定だ。
公取委は価格転嫁への反応が迅速で、5月25日に荷主企業(団体や組合含む)と物流事業者の取引に関する最新の実態調査結果を公表した。
そこでは荷主19社が労務費や原材料費、燃料費の上昇分を運賃や料金に転嫁するのを拒否していることが疑われ、立ち入り調査を実施した。書面と立ち入りの調査結果を基に、法令に抵触する恐れのあった荷主641社に懸念事項を具体的に記した文書を出し、注意喚起している。とはいえ、まだ弱者救済に大きな変化はない。
「2024年問題」を前に 休廃業とM&Aが増加
東京商工リサーチの調査では、2021年の道路貨物運送業の休廃業・解散は459件(前年比0.2%増)で、全体が10.7%減だったのに対して微増だった。コロナ禍の先行きが不透明な中で、コロナ関連支援でしのぎながらも経営体力が落ちた企業や後継者が不在の企業などで、休廃業や解散を決断するケースが増えている。
そして今後、決断を促す契機になりそうなのが、ドライバーの時間外労働を年間960時間に規制する「2024年問題」だ。先行きが見通せない中小企業のオーナーは、むやみな投資よりも事業売却や休廃業に目を向け始めている。
M&Aの仲介会社には、「ドライバーの労務管理をしながら売上高・利益を出し続けられるか」「ドライバーを確保できるか」という現実的な経営への不安を抱えるオーナーからの相談が相次いでいる。
残業時間の上限制限は、たちまち遠距離運送に支障を来す。大型トラックドライバーの賃金は、2020年度は454万円で、全産業の487万円を下回り、他業界より低い。そのため、残業を増やして所得を上げることが運送業界では常態化していた。
一方で、道路貨物運送業は慢性的な人手不足、ドライバー不足に悩まされてきた。長距離運送を一人のドライバーが支えてきた実態がある。だが、上限規制が実施されると、荷主から円滑に受注を確保するためには、新たに各地に中継所を設け、交代要員のドライバーの増員が必要になる。
ドライバーからすると残業時間の削減は、そのまま収入減に直結する。場合によってはドライバーの離職を加速する事態も想定される。それを防ぐには賃金引き上げが必須だが、それには運賃の値上げが避けられない。
「2024年問題」は、運輸業界を取り巻く運送業者、ドライバー、荷主の「三方両得」ならぬ「三方一両損」で、コストアップの悪循環にはまる可能性がある。そして、運賃引き上げのしわ寄せは、川上のメーカー、川下の消費者にも波及するだろう。
2024年問題への対応として、運送業者は第一にドライバーの安全な環境に配慮することが求められる。だが、現実問題はドライバー確保が最優先で、それを補う策として積極的にM&Aによる企業買収を検討する企業が増えてきた。例えば、遠隔地の同業者を傘下に入れることができれば、長距離運送の拠点として、人繰りや配車の面で効率経営につながる。
道路貨物運送業者のM&Aは、他業界に先駆けてこれから本番を迎える可能性が高い。その先にはドラスティックな業界再編も視野に入ってくる。道路貨物運送業界は、目先の倒産増や採算強化に目を奪われず、その先の「2024年問題」と業界再編まで見通した施策を行うことが急務となっている。