日本海沿岸で、北朝鮮からとみられる木造船の漂流・漂着が止まらない。今年はすでに160隻を超え、過去最多となっただけでなく、このままのペースでは、年内に200隻を突破しそうなのだ。経済難による食糧難を補うため、無理な漁をしているとの見方もあるが、東海大海洋学部の山田吉彦教授(56)は「北朝鮮が意図的に密入国者を送り込んでいる可能性もある。警戒を最大限に強化すべきだ」と語っている。
海上保安庁によると、今年確認された漂流・漂着件数は、統計を取り始めた2013年以後、最多だった昨年(104隻)を超え、11月29日現在で163隻。漂着先は、北海道から兵庫県まで広範囲にわたる。
海保の担当者は「今年は年明けから日本海がしけた。秋には台風が日本に上陸後、日本海に抜けたのも、増えた一因だろう」と分析した。
だが、山田氏は、漂着数の割に、遺体発見が少ないこと(=今年は5件で12人)や、無人島や人目に付かない場所に流れ着く事例も目立つことを疑問視し、次のように語る。
「漂着件数からすれば年間1000人規模の犠牲が出ているはず。日本海中央部の大和堆(やまとたい)など、イカ釣りの好漁場があったとしても、そんな危険を毎年、北朝鮮の漁民がおかすとは考えにくい。一体、どこに消えたのか?」
山田氏が9月、青森県で確認した漂着船に謎解きのヒントがありそうだ。エンジンルームが居住空間に改造されており、当初から「日本への侵入が目的だったのでは」と疑われたのだ。
日本への侵入といえば、昨年11月、北海道の無人島、松前小島で発電機などを盗んだとして北朝鮮船の乗員らが摘発された。船長らは有罪判決を受け、乗員8人全員が国外退去処分となった。
山田氏は「警察当局などがひと通りの捜査・調査をして、強制送還するのでは生ぬるい。覚醒剤の密輸を行い、北朝鮮系団体の支援で資金づくりをしている疑いもある。発見時は岩場にぶつかってボロボロでも、沿岸に近づくまでは頑丈だったかもしれない。徹底的に調べるべきだ」という。
海上保安庁の任務は、沖縄県・尖閣諸島周辺の警備強化などもあり、拡大の一途をたどっている。政府は今年度、定員を250人増の約1万4000人にしたが、相手はレーダー監視の目をかいくぐる木造船のうえ、出没先も広範囲のため、対応は追いつかない。
山田氏は「情報収集力を強化すべきだ。事前に不審船の情報をつかみ、沖合で対応できるよう漁協とも協力する。警察権と防衛力を合わせた新組織『海洋警備隊』を創設し、領海は海保、外側は警備隊と役割分担するのも一案だ。北朝鮮は最近、『米朝対話』や『南北融和』の動きに乗じて、攻撃的に出ている。北西からの季節風が吹き荒れる今後、漂着数はさらに増える。日本の海の安全は今、危機的状況にある」と語っている。