過酷、劣悪、薄給…宿泊、飲食、介護業界の“阿鼻叫喚” 

★現場トップでも年収400万円以下
 民間企業に勤めるサラリーマンの2009年の平均給与は406万円で、前年を23万7000円も下回る過去最大の下落だったことが先ごろ、国税庁の調べで分かった。なかでも、業種別で最下位となった宿泊・飲食サービス業界や年収400万円を割り込む介護業界からは、“断末魔”にも似た悲鳴が聞こえてくる。
 「現場トップのマネジャー職でさえ、年収は400万円に届きません。厨房や客室係に至っては、正社員で勤続20年以上のベテランでも200万円台がザラです」
 こう憤るのは、栃木・鬼怒川温泉の老舗旅館でセールスマネジャーを務める男性(46)。男性の業種は、業種別の平均給与で最下位となった宿泊業・飲食サービス業だ。この旅館では、極限まで人件費を抑えても経営は赤字ギリギリの水準だという。
 「こうした悪条件から社員の定着率は低く、それがさらに労働条件を過酷にするという悪循環です。仲居さんや客室清掃係は男女を問わずアルバイトやパートでまかなわざるを得ず、裏方のボイラーマンも1人か2人で連日泊まり勤務という旅館やホテルもあります。残った社員の給与も据え置かれたまま。サービス業の現場を支える“おもてなしの心”どころではありません」
 9位の介護業界からも嘆き節が聞こえてくる。茨城県の介護施設に勤める男性介護福祉士(37)の年収は、やはり400万円に満たない。人手不足も深刻で、長期休暇も取りにくいという。
 「夜勤明けの翌日は休みになりますが、実際には前日の夕方から翌朝まで仕事をして、さらにその当日が夜勤となることも少なくありません。私は独身ですが、今後、家庭を持てる自信はありません。これからの超高齢化社会を支える現場の待遇としては、不十分と言わざるを得ません」
 今回の結果について、経済ジャーナリストの荻原博子氏は次のように解説する。
 「金融業界は高年収の社員のリストラを進めたことから、全体として電気、ガスのインフラ系より低くなりました。不況が関係がないインフラ系は、給与体系も旧態依然の年功序列が続き、ボーナスも安定支給が続くことから、結果としてダントツの安定感となりました。不動産業が唯一上昇したのは、金融危機からの回復基調のサインとみていいでしょう」
 サービス業種の不遇については、「ハードな労働条件に比べて対価が低いのは昔から変わらず、インターネット上に出回る“ブラック企業ランキング”にも多くの社名が見られます。介護業界は、今後ますます需要が高まるにもかかわらず、数字以上に過酷な労働条件を強いられており、社会全体で真剣に考えなくてはいけない問題です」と警鐘を鳴らす。
 これらの業界には、劣悪な労働条件でも利用客の前では笑顔を絶やさない立派な人たちがたくさんいる。そのサービス精神に応えるためにも、旅行や飲食に金を使いたいところ。だが、ほぼすべての業種で給与水準は下がっており、同じサラリーマンとしてどうしようもないのが現状だ。

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