神戸市が計画する須磨区南部の道路建設予定地で、「マツムシ」の音色が響く。都会では珍しくなったマツムシだが、ここは用地買収後も地元の反対で事業が進 まず、長らく人の出入りがないために虫たちの“聖地”になったとみられる。同市はマツムシを「守りたい神戸の生き物百選」に認定しており、市の対応が注目 される。(中西大二)
マツムシはバッタ目マツムシ科。チンチロリン…と、唱歌「虫のこえ」でも歌われる日本の秋を代表する昆虫の一つだ。
音色が響くのは、神戸市須磨区天神町5と桜木町1にまたがる市有地。阪神・淡路大震災後の1995年に事業計画決定した「須磨多聞線」の高架道路(延長約520メートル)予定地だが、地元住民の反対で進まず、約15年間、柵に囲まれたままの状態が続く。
「赤松の郷(さと)昆虫文化館」(兵庫県上郡町)によると、マツムシは低山地の日当たりのいい草地に生息する。「希少種ではないが、都市部では珍しい。人が出入りしなかったことが幸いしたのでは」と驚く。
「昨秋ごろから聞くようになった」とは近くに住む男性(53)。「せっかくの音色。この地域で保全できないか」と話す。
マツムシは、東京都のレッドデータブックで絶滅の危機にひんする「絶滅危惧1類」に指定されるなど、関東では希少種扱い。兵庫県のレッドデータブックには指定されていないが、神戸市は2009年、市民の応募を基に「守りたい神戸の生き物百選」に選んだ。
同市は、道路建設は必要との立場を崩しておらず、今月も住民の意見を聞くワークショップを開いた。建設予定地で「守りたい生き物」が生息していることについて、同市道路部工務課は「認識はしているが、どうするかは未定」としている。
【マツムシ】 成虫は淡い褐色で20~30ミリ超。枕草子でも紹介されるなど、日本人にとって親しみ深い昆虫。近年は「リーリリリ」と鳴くアオマツムシ の勢力が増しているという。日本で「鳴く虫」は約130種。鳴くのはほとんどがオスで、外敵から身を守り、メスを誘うためなどとされる。