新型コロナウイルスの感染拡大により、東京五輪・パラリンピックの延期が決定したことで、多大な影響を受ける可能性が高くなったのが、東京・晴海の選手村に2023年に完成予定の新市街「HARUMI FLAG」だ。大会終了後、改修を経て分譲マンションとする予定が、大会の延期により工期に変更が出てくるのは確実。すでに一部の物件は販売済みだが、予定通り購入者に引き渡しができるかどうかは不透明な状況となっている。
しのぎを削り合った世界の一流選手が過ごした選手村の後に完成する人気物件に、予定通り入居できない可能性が出てきた。
「HARUMI―」は、銀座まで2・5キロの徒歩圏内という立地、三方が海に囲まれた眺望がセールスポイント。約13ヘクタールの土地に、五輪後に完成するタワーマンション2棟を加え計23棟、約5600戸の賃貸・分譲マンションが完成する予定となっている。すでに一部は昨年7月から販売を開始しており、893戸に対し2000件以上の申し込みがあった。
購入者への引き渡しは、大会終了後にリフォーム工事を経て23年3月から行われることになっていたが、大会の最大で1年程度の延期が決定したことで、暗雲が垂れ込め始めたことは間違いない。開発を担当する三井不動産の広報担当者は「(延期の)時期がまだ確定していないこともあり、具体的なことについてお話をすることはできませんが、何らかの影響が出るということは認識しています」と戸惑いながら回答した。
「まだ3年あるから、余裕なのでは?」とも感じられる。ただ、事はマンションの改修工事だけでは済まないことが問題だ。
東京都の市街地整備部の担当者は「住宅棟の改修だけではなく、道路の整備も必要になります。(マンションを)購入された方々が実際にそこに暮らせる環境づくりをするために、3年というのは決して余裕のある期間ではなく、必要な期間だと認識しています」とコメント。選手村のメインダイニング跡には小中学校が23年4月に開校予定。工期が遅れれば「入居はできても学校は遠くに通わないといけない」ことにもなりかねない。
引き渡しが遅れた場合、入居のプランが崩れた購入者から不満の声が上がることも想定される。契約書には「売り主が予見できなかった理由で引き渡しが遅れた場合、買い主は承諾する」と記載されており、これに基づけば法的には売り主に賠償責任は生じないものの、全員が素直に納得するかは疑問。三井不動産は「突然の発表であることに加え、11社によるJV(共同企業体)のため、関係者も多岐にわたる。まずは状況を確認し、対応していきたい」と話した。
◆五輪・パラリンピック選手村 各国・地域のアスリートらが寝食を共にし、交流するために設置される拠点。五輪憲章で設置が義務づけられており、1964年の東京大会では、国立競技場近くにあった在日米軍の家族宿舎跡地を利用した。近年は大会後、住宅として分譲するのが一般的。2012年ロンドン大会は治安が悪かった地域を再開発し、誕生した新たな街は五輪のレガシー(遺産)となっている。