遺族も警鐘、コロナ禍で「悪質交通事故」が急増中

(柳原 三佳・ノンフィクション作家)

 新型コロナウイルスで緊急事態宣言が発出される中、悪質な交通事件の報道が相次いでいます。

 5月6日、午後9時前、札幌市で31歳の男性がひき逃げされ死亡しました。逃走していた加害者(42)は、4日後の5月10日に逮捕されています。

 ゴールデンウィーク明けの5月7日午前7時頃、名古屋市内で起こった事故も悪質でした。酒を飲んで運転していたブラジル国籍の男(20)が、ワゴン車と衝突し、相手のドライバーに重傷を負わせながらも、横転した車から逃走。その後、逮捕されています。

(参考)『事故起こし横転した車から逃走・・・酒飲んで車を運転しワゴン車と衝突 運転手の男性けが 20歳の無職男逮捕』(東海テレビ)

東海テレビ|TOKAI TELEVISION

自粛によるストレス発散目的でハンドル握るドライバーが急増

 また、この日の正午ごろには、東京の江戸川区で大変痛ましい事故が発生しました。

 新型コロナウイルス対策で休校中だった中学1年生の男子生徒(12)が、自転車で横断歩道を横断中、信号無視をして交差点に進入してきた車に衝突されたのです。

 車は法定速度を上回る速度で走行しており、男子生徒は自転車と共に約40メートル飛ばされたそうです。

 加害者の男(53)は、自分が人身事故を起こしたことを認識しながら、被害者を救護すらせず逃走し、数時間後、千葉県内で逮捕されました。男子生徒は病院に運ばれましたが、残念ながら亡くなりました。

 警視庁の調べによると、男は「コロナのせいで仕事がなくなり、釣りに行く途中だった」と供述しているそうです。

(参考)「コロナで仕事もなく釣りに」中1男子ひき逃げ死亡事件、逮捕の男が供述(AbemaTIMES)

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 新型コロナウイルス感染拡大により、今、多くの人たちが「非日常」の暮らしを強いられています。感染への恐れだけでなく、長引く自粛によって経済的な損失を受け、生活に極度の不安を感じている人も多いことでしょう。そうした背景が、精神面や体調に影響し、集中力に悪影響を与える可能性もあります。

 ストレス発散のはけ口として、ガラガラの道路に繰り出し、あえて危険なレースまがいの走りを楽しむローリング族も出没しているようです。

コロナによる運転への影響、事故で息子奪われた父が懸念

「今、国民の関心が新型コロナウイルスによる生活の不安へと移行しているからでしょうか、お酒を飲んでハンドルを握ったり、猛スピードで走ったり、ひき逃げをしたりする行為がいかに危険であるか、という認識が薄くなってきているような気がします。しかし、コロナも交通事故も、その対策の根底にあるのは同じ命の大切さではないでしょうか」

 最近の交通事故報道に触れ、そんな意見を寄せてくださったのは、名古屋市に住む眞野哲さん(59)です。

 眞野さんは、2011年10月、当時大学1年生だった長男の貴仁さん(19)をひき逃げで亡くした遺族です。

 それは、極めて悪質な事件でした。

悪質事故を起こしているのは順法精神が薄い悪質ドライバー

 ブラジル国籍の加害者はその夜、ハロウィンパーティーでテキーラなどを飲み、無免許にもかかわらずハンドルを握って、車に追突する事故を起こしました。しかし、その場で停止せず、ヘッドライトを消してそのまま走り続け、一方通行の道を逆走して逃走中に、自転車に乗って横断歩道を渡っていた貴仁さんに衝突したのです。

 それだけではありません。加害者は道路に倒れている貴仁さんを放置し、さらに逃走します。そして約1時間半逃げ続けた挙句、逮捕されました。ひき逃げ事故に遭った眞野さんの息子さんが乗っていた自転車(遺族提供) © JBpress 提供 ひき逃げ事故に遭った眞野さんの息子さんが乗っていた自転車(遺族提供)

 事故を起こした車は無車検で、自賠責保険にも、もちろん任意保険にも加入していませんでした。

 私はこれまで、多くの交通事故を取材してきました。その中で痛感するのは、「悪質な事故は、順法精神の薄い悪質なドライバーが起こしている」ということです。

 交通事故の多くは「過失」として処理されますが、現実にはとても「過失」とは呼びたくないような、「起こるべくして起こっている」事故があまりに多いのです。

 眞野さんの息子さんが犠牲になった事故は、加害者が一件目の事故を起こし、パニック状態で逃げている最中に発生しています。

「ひき逃げ」という行為は大変悪質ですが、ひき逃げ逃走中の運転は、実はかなり危険度が高いのです。

 冒頭で紹介した複数のひき逃げ事件では、逮捕までに新たな被害者を生まなかったことが不幸中の幸いでしたが、私たちのすぐそばには、こうした危険なドライバーが無数に潜んでいるということを知っておくべきでしょう。

コロナによる経済不安が運転者に与える影響

「私の息子の事件は、ブラジル人による飲酒、ひき逃げの上、母国でも一度も免許を取得したことがないという無免許運転でした。しかも死亡事故でしたのでメディアでもある程度大きく取り上げられました。5月7日に起こったブラジル人の事故もうちの事故と共通点が多いのですが、死亡事故ではないのでそれほど注目されることはないでしょう。しかし、法律を守らない外国人による事故の問題は今も大変深刻です。ある意味、コロナ以上に理不尽なかたちで命を脅かす行為であり、もっとメスを入れてもらいたいと思います」

 新型コロナウイルスの影響で、今、多くの労働者の雇用が不安定になっています。そんな中、酒で気を紛らわし、この事故のように朝の飲酒運転につながるケースがこの先も起こるかもしれません。

 また、経済的な苦しさから自動車保険の契約をせず、無保険で走るドライバーの増加も危惧されます。

 都心部では外出自粛の影響で車の交通量が激減し、事故件数が減っている反面、死亡者数が増えています。その理由は「車のスピード出しすぎ」にあるとのことで、警視庁は5月8日から緊急対策として幹線道路を中心にスピードの取り締まりを強化しているそうです。

 多くの学校が休校中の今、日中には学校にいるはずの子どもたちがすぐ近くにいる可能性があります。ハンドルを握るドライバーの方々、そして歩行者や自転車に乗る方々も、この時期はいつもとは状況の違う「有事である」ということを認識し、リスクをできるだけ遠ざけるよう、十分に気をつける必要があるでしょう。

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