郊外にあったホームセンターが、なぜ「大都市の駅前」に出店しているのか

ホームセンターといえば、郊外の国道沿いやのどかな田園地帯にポツンとあるイメージが強いだろう。それが今後は、大都市のおしゃれスポットには必ずある定番テナント、という位置付けに変わっていくかもしれない――。 【画像】えっ、ニトリを目指してるの? これが“きらきら”のホームセンターです(全16枚)  2024年9月6日に先行開業した大阪駅前の商業施設「グラングリーン大阪(GRAND GREEN OSAKA)」。巨大ターミナル駅のまん前であるにもかかわらず、広大な芝生広場ができたことで話題になっている。ただ、それに負けず劣らず注目を集めているのが、「おしゃれコーナン」である。  その名も「gardens umekita(ガーデンズうめきた)」。コーナンの都市型店舗は「水と緑をもっと身近に」というコンセプトのもとで、店内には約600種類の植物を展示しているガーデニング専門店だ。  山積みとなったトイレットペーパーから耕運機までなんでもそろう、郊外型コーナンと一線を画する。というか全くの別物というほど気取った……いや、ハイセンスなたたずまいが大阪駅前に登場したのだ。  「おいおい、コーナンどうしちゃったんだよ?」と戸惑う人も多いだろうが、実は「駅前出店」に力を入れるのはコーナンだけではない。

「カインズ」が大阪市内に初出店

 「ガーデンズうめきた」オープン2日前の9月4日、大阪の「あべのハルカス」に併設している商業施設「あべのand」の1~2階に「カインズ」が開業しているのだ。  ちなみに「あべのand」は「成城石井」「ロクシタン」「URBAN RESEARCH DOORS(アーバンリサーチドアーズ)」なども入る、いわゆるファッションビルだ。当然こちらのカインズも工具や農具を取りそろえる郊外のホームセンター的な趣ではなく、生活雑貨やインテリア、ガーデニング用品に重きを置いている。  カインズは2023年6月29日、東京・新宿駅に隣接している「ハンズ新宿店」の中に初の都市型店舗「カインズ ハンズ新宿店」をオープンしている。そういう「都市型カインズ」がついに大阪中心部にも進出してきたというワケだ。  ただ、先ほどのコーナン的な「おしゃれ路線」もカインズはかなり前から力を入れている。2018年にライフスタイルDIYショップ「Style Factory(スタイルファクトリー)」という新業態を立ち上げているのだ。  1号店の「Style Factoryららぽーと名古屋みなとアクルス店」は9月1日に閉店してしまったが、今も東京・神奈川の「ららぽーと」などで4店舗を営業している。  このように「ガーデニング」「ライフスタイル」を全面に打ち出した「おしゃれ店舗」で大都市に進出する動きは、実は他のホームセンターでも近年よく見られる。その代表は2022年11月、恵比寿ガーデンプレイスにオープンした「DCM DIY place」である。

「DCM DIY place」とは

 DCM DIY placeは、カインズやコーナンとしのぎを削る大手ホームセンターDCMの新業態だ。都市部で暮らす人々の住まいにまつわる悩みの解決や、ライフスタイルに合ったDIYのアイデア・商品の提案をコンセプトとし、それらを実際に店舗で試せる「体験型店舗」となる。DCM初の「DIYコンシェルジュ」もある。  さて、そこで次に気になるのは「なぜ?」ということではないか。ホームセンター3強はなぜ装いを「おしゃれ」に変えて、続々と都市部へと乗り込んでいるのか。  それはミもフタもない言い方をすると「生き残るため」である。  このまま既存の郊外型ホームセンターを続けてもジリ貧となり、業界再編の波に飲み込まれてしまうのは時間の問題だからだ。  まず、ホームセンターの主戦場である日本全国の郊外ロードサイド、農村部が急速に人口を減らしていることは説明の必要がないだろう。「消滅可能性自治体」なんて言葉が注目を集めたように、今の日本で最も人口ボリュームのある第一次ベビーブーム世代(現在74~76歳)が亡くなり始める10年後あたりから、地方の衰退は加速していく。そこで厳しい自然淘汰(とうた)にさらされるのが郊外型ホームセンターである。  なぜかというと、実はこの業態は深刻な「店舗過剰」に陥っているからだ。コーナンやDCMなどのホームセンター企業が理事を務める日本DIY・ホームセンター協会のデータによれば、この業界の売上高は2000年代に入ってからほぼ横ばいだ。コロナ禍の2020年だけは「ステイホーム」で一気に跳ね上がったが、それ以外はだいたい3兆9000億から4兆円あたりで推移している。つまり、「頭打ち」だ。  しかし、プレーヤーは右肩上がりで増えている。1975年から2000年の間、ホームセンターの数は年間約100~200店のペースで増え続け、それ以降もじわじわと増えて2008年に4000店舗を突破、2023年には4970店舗にも到達しているのだ。

人口減の日本でホームセンターが生き残る道は

 つまり、人口が急速に減っているのだから本来は売り上げが落ちるはず。が、そうなっていないのは店舗を増やすことで、どうにか持ちこたえさせているという見方もできるのだ。ただ、人口減少が著しい地方ではこのスキームももはや限界なので「新客」を獲得せざるを得なくなった。人口減少のこの国で唯一、新客が取れそうな場所といえば東京や大阪という「大都市」しかないではないか。  しかし、都会のド真ん中でガチの農業や工事に使うツールが売れるわけがないので、新たなコンセプトをひねり出さなくてはいけない。そこで狙いを定めたのが「ガーデニング」「ライフスタイル」「DIY体験」だったというワケだ。  ただ、実はこの分野はかなり過酷なレッドオーシャンである。既に都市部には、ホームセンター業界よりひと足先に郊外から都市部に進出を果たした「強敵」が待ち構えているからだ。  ニトリやイケアだ。  ご存じのように、以前のニトリやイケアは郊外のロードサイドで大型店舗が主流だった。しかし、人口減少を見据えて2016年にニトリが都市型店舗を出店。2020年にはイケアも東京で都市型店舗をスタートした。これで普段、電車移動をしている都市部の人々、特に若年層を取り込んだのである。  つまり、大都市に次々と進出するホームセンターの狙いは、都市型のニトリやイケアの顧客を奪還することにある。それらの店舗をハシゴすればよく分かるが、キッチン用品、掃除洗濯用品、インテリア雑貨など、ほとんど同じ品ぞろえなのだ。

ホームセンターがニトリになれる理由

 では、ホームセンターはニトリの牙城を崩せるのか。そのポテンシャルがあることは、既にあるホームセンターのプレーヤーが証明している。  九州を中心に363店舖を展開しているナフコだ。  同社は1947年、北九州の家具店が発祥ということもあり、2010年に家具とホームファッションアイテムを中心に取り扱う新業態「TWO-ONE STYLE」をスタート。家具からインテリアまで幅広く取り扱っておりニトリと遜色がない。公式Webサイトで紹介している店舗をカウントしたら100を超えていた。  さらに、ニトリのように都市型店舗にも進出している。2022年4月、松坂屋静岡店を出店。これまでの郊外店舗とは異なり、より都市部の客を意識して、さまざまなインテリアを五感で体験できるようにしているほか、ガーデンニングなどの品ぞろえも充実させているのだ。  さて、このような話を聞くと、ホームセンターが生き残っていくにはニトリやイケアなどの分野に積極的に進出して、客を奪っていくしか道がないと思うかもしれない。しかし、実はそこも微妙だ。

事業者数が自然減少している家具小売業

 確かに家具小売業の世界は、ホームセンター業界ほど「過剰出店」ではない。日本家具産業振興会のデータによれば、家具小売業の事業所は1976年に2万8133あったが、40年後の2016年には6128まで減っている。人口減少にともなって市場も縮小し、プレーヤーが自然淘汰されていたのだ。  だからこそ、ニトリのような製造小売の巨大プレーヤーが成長できる余地があったとも言える。しかし「こっちの市場は稼げるぞ」ということで、ホームセンターがどんどん参入してニトリのような動きをすれば当然、血で血を洗うレッドオーシャンになってしまう。  「ライフスタイルDIY」とか「ホームファッション」とか掲げているスローガンに若干の違いはあるが、品ぞろえもターゲットもほとんど同じだ。つまり、そのうち熾烈(しれつ)なカニバリが始まってしまうのだ。  このような事態を避けるには、「独自の動き」で専門分野を確立するしかないのではないか。その一つの可能性となるのが、「コメリ」だ。  ご存じの方も多いだろうが、コメリは農協との提携を進めていて「農家のコンビニ」と評されるほど、地方に根付いている。今のところ東京や大阪のターミナル駅前に進出、なんて動きが一切見えない。  先日とある地方に行ったとき、農家の人々にどのホームセンターをよく利用しているかを尋ねたら、真っ先に出たのがコメリだった。このような「強力なファン」をどれほど多くつくれるかが、人口減少時代のビジネスでは重要だ。競合が都市を目指す中で、地方の過疎化や高齢化という課題に真っ正面から向き合うスタンスによりエッジを立てて差別化していく、というのもホームセンターの生きる道なのではないか。  実際、ホームセンターではないが同じような方針を打ち出している企業もある。「無印良品」を運営する良品計画だ。

「個店経営」を掲げる無印良品

 これまでは大都市の商業施設や繁華街が主戦場だったが、2021年4月に発表した中期経営計画の骨子で、地方や郊外のスーパー隣接地に積極的に出店していくことを表明した。  この背景には、良品計画が掲げている「個店経営」がある。画一的なチェーンストア経営ではなく、地域の課題に商品とサービスで貢献していくことをビジョンとしているのだ。  分かりやすいのは、長野県だ。2021年に塩尻市での独立店舗を皮切りに2024年6月には長野市、茅野市などに新店舗をオープン。いずれも駅ビルや商業施設の中ではなく、幹線道路沿いの広い駐車場を持つ店舗だ。  郊外のホームセンターが駅ビルや商業施設を目指す中、なぜ無印は「逆」をいくのか。この出店を扱った長野放送のVTRの中で、良品計画 営業本部信越事業部長はこう述べているの。  「車社会の生活圏では、(駐車場がある)立地でないと車でアクセスができないのでこういった土地を選択した。地域の中で愛されるスーパーの真横に位置することで、より日常生活の役に立てるお店になるのではないか」(2024年6月28日 長野放送)

自動車普及率が全国6位の長野県

 実は、長野県は自動車普及率が全国6位と高い。家族全員がクルマを持つケースも珍しくなく、ちょっとした移動にも使う。そのような地域の特性を鑑みたというワケだ。  人口激減時代を見据えて、大都市の巨大商圏に「活路」を見い出そうという企業もあれば、地方や郊外の課題解決にこそ、自分たちの存在価値があるという企業もある。  どちらが吉と出るか凶と出るかは分からないが、消費者が減っていく中で、「好調企業の稼ぎ方をマネる」「景気のいい分野に参入する」という事業戦略がもはや通用しないということだけは、はっきりしているのではないか。 (窪田順生)

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