私は東京、神奈川、埼玉、千葉などの通勤圏で販売されている新築マンション各物件の資産価値を評価したレポートを作成し、ネット上で有料頒布している。
最近感じることは、郊外エリアでの新築マンションが一様に販売不振であるということだ。それはもう、あのリーマン・ショックの頃と同じくらい売れていない。
デベロッパーは、あまりに売れないと新たな物件を開発しなくなる。現に、首都圏の新築マンション供給戸数は最盛期の2分の1から3分の1程度にまで減少している。しかも、供給エリアは都心に集中する傾向にある。
つまり、郊外での新築の供給戸数はこの10年ほどで激減しているのだ。
郊外で供給される新築マンションは、ほとんどが初めて不動産を買う「一次需要層」と呼ばれる人々向けである。年齢ならおおむね30代。子供のいるファミリー層である。彼らは子供が学齢に達する前に物件を購入したい、と考える。
10年以上前の新築マンション市場の主役は、こういった郊外の一次需要層向けのファミリー・マンションであった。
ところが、ここ10年で新築を供給する中心エリアは、すっかり都心へ移ってしまった。その理由は、若年カップルたちのライフスタイルの変化だ。
そもそも、マンションというのは一時的な仮住まいで、最終的には郊外の芝生の庭付き一戸建てを手に入れるのが住宅購入のゴールだった。
しかし、そういった住まいは都心から遠い。そして、奥さんは専業主婦であることを想定している。働いてもせいぜいご近所でのパートレベルのはずだったが、最近では奥さんも都心の職場でバリバリと仕事をこなすキャリア志向になってきた。通勤に時間がかかる郊外は避けられてしまう。
そこに登場したのが、比較的安価で購入できた湾岸のタワーマンションだった。夫婦の収入を合わせて何とか購入できるレベルの価格帯。だからペアローンを組んでの購入がはやった。
そういった購買スタイルが主流になったことで、郊外の新築マンション市場はますます需要が細くなった。
この潮流を読み切れていないデベロッパーは、かつては数多く存在した「郊外の一次需要層」に向けた物件を、数が減ったとはいえ供給している。
そういう物件のほとんどは建物が完成しても販売が続く完成在庫になっている。この傾向は首都圏だけでなく、関西圏でもみられる。
そうでなくても郊外には中古マンションの売り出し物件がゴロゴロとしている。今後、郊外ではますます需給がだぶつきそうだ。流れを読み切れていないデベロッパーは生死をかけたサバイバルに直面していることになる。
■榊淳司(さかき・あつし) 住宅ジャーナリスト。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案・評論の現場に30年以上携わる(www.sakakiatsushi.com)。著書に「マンションは日本人を幸せにするか」(集英社新書)など多数。