山形県酒田市の民間企業「庄内社会教育事業センター」が運営する酒田ケーブルテレビ(STV)が昨年12月末から放送を停止していることが10日、分かった。法人登記手続きを長年怠り「みなし解散」となった後、入居していた雑居ビルの停電で、業務を継続できなくなった。社長は今年1月に死亡し、株主の構成は不明。放送業務登録が取り消される全国初のケースとなる可能性がある。
東北総合通信局によると、STVは1983年に放送事業として許可され、受信障害などのある市中心部向けにNHKと民放の地上波などを送信していた。ピーク時には100世帯程度が加入していたとみられるが、近年は通信局への報告を怠っており、最近の状況は不明だ。
必要とされる法人登記手続きも12年以上全く行われていなかったため、センターは昨年12月11日付で休眠会社として「みなし解散」となった。
一方、2週間後の29日には、事務所と放送設備を置いていた雑居ビル「パイレーツビル」(地上7階、地下1階)が全館で停電。ビルは老朽化が激しく、建物所有者(千葉県松戸市)も復旧工事に着手しないため、同日以降は技術的にも放送できない状態となった。
STVの業務を1人で担っていた社長は今年1月末に死亡。ほかに取締役や従業員はいないとみられ、株主の構成も明らかでない。事業の継続や清算に動く関係者が全くいない状態が続いている。
社長の遺族の一人は「本人が1人でやっていた会社で、自分は関係ない。会社のことは何も分からない」と話す。かつて大株主だったとみられる元取締役の親族は「元取締役の相続人の死亡時に専門家に遺産を調べてもらったが、株はなかった。自分も相続したつもりはない」と言う。
東北総合通信局によると、清算人らが現れて休止や廃止の手続きをしなければ、放送停止から1年となる今年12月末で全国初の登録取り消しになる可能性がある。テレビの視聴などで困っている加入者は、相談してほしいとしている。
◎既払い料金、電柱の扱い、入居ビル停電 異例の事態問題山積 難視聴地域住民「困った」
酒田ケーブルテレビ(STV)を運営する庄内社会教育事業センターが解散し、放送停止に陥るという異例の事態に、関係者の間で困惑が広がっている。
市内の90代男性は昨年12月29日、自宅のテレビが突然映らなくなった。周辺は電波障害があってSTV加入者が多く、同様の被害を訴える人が相次いだが、センターに電話はつながらなかった。「テレビは重要な情報源で、突然放送が止まるなんて想像もしなかった」と憤る。
別の男性は、衛星放送だけは以前に自前で設置したアンテナで受信できるが、ケーブル経由だった地上波が映らなくなった。「電気店に新しくアンテナを立ててもらったが、難視聴地域のため地上波が入らない」と渋い顔。それでもNHKには地上契約の解約を断られたという。
市消費生活センターにはSTVについて「契約が解除できない」などの相談が計12件寄せられた。担当者は「今後の料金の自動引き落としは止めることで金融機関から了解を得た。ただ、既払い分が返還されるかは分からない」と話す。
STVが市道に206本設置している電柱の扱いも問題だ。市土木課の担当者は「事業をやめるときは撤去してもらうのが原則だ」と強調するが、事実上放置されることになりそうだ。
STVが放送設備を置く「パイレーツビル」は市中心部の飲食街で最大のビルだが、停電と立ち入り禁止が続く。停電の原因は不明で、復旧の見通しについて所有者は河北新報社の取材に「答える必要はない」と明らかにしていない。
テナントは移転し始めており、あるスナック経営者は「所有者が復旧させるつもりがあるのか分からない。解体費用もかさむだろうし、ビルが廃虚になる可能性もある」と話す。