酪農の進む多角化 「乳肉複合」収入増狙う

東北の酪農家が主力の生乳生産に加え、肉用子牛の販売に乗り出すケースが増えている。繁殖農家の高齢化で肉用子牛が不足し取引価格が上昇していることや、輸入飼料の高騰で酪農経営が厳しさを増すことが背景にある。最新技術を取り入れて受精卵の本格生産に挑む動きもあり、経営の多角化で収入増を狙う。

「酪農は餌代を差し引くと利益がほとんど残らないのが現状。子牛販売は効率的に収入を増やせる」。約10年前に子牛販売を始めた宮城県白石市の酪農家佐藤工季さん(35)は、取り組みの理由をこう説明する。
黒毛和牛の人工授精卵を生乳用のホルスタイン牛の子宮に着床させ、生まれた黒毛和種の子牛を売る。年間販売数は現在20頭。将来、40頭に増やす計画で「母牛」として必要なホルスタイン牛を、3年かけて30頭から60頭に倍増する。
ホルスタイン牛の購入費や牛舎建設費として、9月に日本政策金融公庫仙台支店から1億6500万円の融資を受けた。和牛の雌牛を増やし、受精卵の販売も視野に入れる。
同支店の担当者は「酪農だけの『1本足打法』経営を2本足、3本足にして、もうかる酪農を目指している。先進的な経営で将来性がある」と評価する。

<取引価格が上昇>
従来型の酪農経営は厳しさを増す。理由の一つが輸入飼料の高騰。農畜産業振興機構(東京)によると、2015年度の輸入乾牧草の価格は1トン当たり4万2000円で、10年前のほぼ1.5倍となった。
一方、肉用子牛の15年度の平均価格は黒毛和種の雄で約73万円。この10年で4割上がった。ホルスタイン牛を相場の1頭約50万円で購入しても、子牛を数頭売れば元を取れる。
農林水産省畜産企画課は「子牛価格の高騰が、酪農と和牛繁殖の『乳肉複合経営』への転換を後押ししている」と指摘する。

<最新技術を活用>
宮城県丸森町で酪農を営む半沢善幸さん(47)は15年11月、受精卵を効率よく確保する技術を導入した。
牛の自然排卵は2カ月に1度だが、卵巣から卵胞液ごと吸引して人工授精することで2週間に1度の頻度で受精卵を作れる。今後、肉質など遺伝的に優れた黒毛和種の母牛を現在の10頭から40頭に増やし、受精卵を本格的に生産する。
受精卵の相場は1個当たり5万円前後。主に地域の酪農家に販売する予定。半沢さんは「最新技術を最大限活用し、酪農経営を地域全体で底上げしたい」と力を込める。
子牛販売も現在の約80頭から150頭程度にする考えで「牛を飼い始めて牛乳を出荷するまでに3年は必要。酪農だけでは新規就農は難しい。利益の出る経営ができれば、後継者不足の解消や酪農家減少の歯止めにつながる」と期待する。

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