野菜が高騰、新型コロナで「取り合い」に

関西のスーパーマーケットなどで販売されるキャベツや白菜などの野菜の価格が乱高下している。

 4月下旬~5月上旬にかけて例年の3倍近くまで高騰し、一度は値が落ち着いたかと思えば再び値上がりの動きもある。新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛で自宅で調理する機会が増えたのに加え、キムチなど発酵食品への加工用需要の急増など複数の要因が影響した。今後は学校給食の再開、収穫にあたる労働力不足などが、価格の波乱要因になりそうだ。(牛島要平)

1カ月で価格3倍

 大阪府岸和田市のスーパーマーケット「コープ岸和田店」では5月中旬、キャベツ1玉が258円で売られていた。例年の198円に比べて高い。白菜は4分の1玉が例年の98円に対して約1・6倍の158円だ。

 キャベツを手にした同市内の主婦(55)は「(外出自粛で)買い物はこの店だけにして2日に1回に絞り、なるべく安いものを買おうとしているのに」とため息をついた。

 農畜産業振興機構(東京)の調査によると、大阪市中央卸売市場ではキャベツの卸売価格が4月上旬から上がり始め、4日の1キロ73円から30日には約3倍の221円まで高騰した。

 白菜も4月6日の1キロ122円から5月1日に267円まで上がり、例年の2・9倍を記録した。それ以降、価格は落ち着いたものの、5月中旬からまた上がり始めている。

産地リレーの端境期

 高騰した背景には新型コロナの影響による需要の拡大で野菜の「取り合い」が発生したことがある。

 大阪府南部でコープ各店を運営する大阪いずみ市民生活協同組合(堺市)の農産(野菜)バイヤー、兼山明さん(54)によると、緊急事態宣言が出された4月上旬以降、野菜の販売量は前年比で20~30%増となったという。

 外出自粛の影響で生鮮食品の需要が高まっただけではない。簡単に調理できる野菜炒め用などの加工品が売れたほか、「発酵食品は体を守る免疫力を向上させる」という情報に期待して、キムチや漬物などの食品メーカーが需要を見越し、市場で白菜などの野菜を買い込んだという。

 また、野菜の供給には、収穫期を迎えた産地をつないで市場に届ける「産地リレー」と呼ばれる仕組みがある。キャベツや白菜は春から夏にかけて産地が西から東に移るが、今年は暖冬の影響で生育がよく、九州などが春先の出荷を早めたため、4月に一時的に市場供給量が減ったことも影響した。そこへ4月7日に緊急事態宣言が出されると、首都圏で野菜の需要が急拡大。市場で少なくなっていた西日本の野菜が一気に東に流れ、関西での需給が逼迫(ひっぱく)した。

 兼山さんは「店での需要に対して仕入れの量を確保できない野菜も出て、品切れのおそれがあった。今まで経験したことがない事態だった」と話す。

再び値上がり懸念も

 今後は野菜の産地が西日本から長野県などの東日本に移るが、価格が安定に向かうかどうかは不透明だ。緊急事態宣言の解除により、休校していた学校の給食や飲食店の営業が再開すれば、再び野菜の需要は急拡大が予想される。

 波乱材料は生産面にもある。6月以降、大雨や台風による被害が心配されるだけではない。多くの農家で不可欠の労働力となっている東南アジアなどからの外国人技能実習生が、新型コロナによる入国制限で不足し始めている。

 兼山さんの取引先の農家からは「このままでは収穫が遅れてしまい、新型コロナの第2波で再び野菜需要がふくらんだときに対応できない」との声も上がっているという。

 一方、これからキャベツなど高原野菜の収穫期を迎える長野県のJA全農長野の担当者は「観光業や製造業など仕事が減っている業種から外国人人材をあっせんしてもらい、人手は確保できた。生産計画を大きく下方修正する必要はなさそうだ」と胸をなでおろす。

 新型コロナの感染が再び拡大するかもしれない不透明な状況に、野菜をはじめ農産物の市場関係者は今後も頭を悩まされそうだ。

輸入果物にも影響

 新型コロナウイルスの感染拡大で、バナナやマンゴーなど輸入果物も一時期、市場での価格が高騰し、品薄感が広がった。外出自粛による“巣ごもり”消費の増加や、輸出国のコロナによる混乱が影響しているという。

 大阪市中央卸売市場によると、バナナの3月の平均価格は1キロあたり188円と前年3月より0・3%高く、前月比で8円上昇した。4月中旬から5月初旬にかけて、店頭などでバナナの品薄感や値上がりが続いたが、バナナの輸入業者でつくる日本バナナ輸入組合(東京)は「栄養価も高く、気軽に食べられることで需要が急激に高まったことが原因」とみている。

 一方、フィリピン国内で都市間移動が制限され、収穫や輸送の作業が滞ったため一時的な影響はあったものの、4月のフィリピンからの輸入量は前年同期比97・9%とほぼ例年並みという。

 バナナ以外の輸入果物にも影響が出た。大阪市中央卸売市場の卸売会社「大果大阪青果」によると、コンテナ船の世界的な輸送量縮小の影響を受けたメキシコ産のアボカドや、航空会社の減便・運休で空輸量が減ったマンゴーやラズベリー、ブルーベリーなども一時期入荷量を減らした。ただ、現在は飲食店などの業者の需要も少ないことから、市場価格への影響は抑えられているという。

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