新幹線や高速バスの回数券を取り扱ってきた宮城県内の金券ショップが苦境に陥っている。ICカードの急拡大で交通各社が回数券販売を打ち切るなどし、各店での取り扱いが減ったためだ。業界団体は「高齢者など情報弱者に回数券は必要だ」として国などに販売継続を求めている。
大崎市のJR古川駅前で唯一の金券ショップ「街かどチケット」は30日で営業を終える。鎌田義昭社長(67)は「利用客が多い仙台-古川間の高速バスと新幹線で回数券が出回らなくなったのが響いた」と肩を落とす。
ジェイアールバス東北(仙台市)は2019年3月、仙台-古川線でICカードを導入し、回数券の販売を終了した。今年4月にはミヤコーバス(同)も仙台と古川、鳴子、加美を結ぶ各路線でICカードを導入。割安な4枚つづりの回数券を廃止した。
街かどチケットは01年創業。20年度は新型コロナウイルス禍もあって旅行客が急減し、売り上げは3分の1に落ち込んだ。現在はミヤコーバスから発売終了前に仕入れた回数券を売るが、鎌田さんは「チケットレス化の波は止められない」と業界の先行きを案じる。
JR東日本も今年3月末で仙台-古川間、6月末で東京-仙台間などの東北新幹線の回数券販売を終えた。ICカードで改札を通る「タッチでGo!新幹線」のエリアを広げた関係だ。
金券ショップを兼ねる仙台市青葉区の「佐松電話店」の佐藤英松社長(43)は「回数券は主力商品であり、採算に影響する」と漏らす。
日本チケット商協同組合(東京、加盟406店)によると、20年度は宮城2、青森1を含む全国44店が閉店した。閉店数は前年度の2倍となった。
組合は今春、東海道新幹線の回数券廃止を打ち出したJR東海や国土交通省などに、販売継続を求める嘆願書を出した。
深尾一広代表理事は「回数券の需要は底堅く、販売中止は高齢者や情報弱者への配慮が足りない。各社はICカードでのポイント還元などを打ち出すが回数券に比べて値下げ効果は低く、実質的に値上げが起きている」と訴える。
コロナ禍でチケットレスに拍車
交通各社はICカードの導入に加え、スマートフォンを提示するだけで乗り降りができる実証試験を実施し、切符や現金を使わないシステムの普及を目指す。
ミヤコーバスはICカードについて「外国人客などの利便性が向上する。コロナ禍で非接触型の精算が可能となる」と強調する。
ある交通事業者の担当者は「切符や回数券をなくせば、印刷費や管理費を減らせる」と明かす。
金券ショップの苦境に対し、市民の反応はさまざまだ。「ICカードが便利なので金券ショップは使ったことがない」と大崎市内の主婦(25)。同市内の会社員女性(49)は「回数券がないとICカードに慣れていない高齢者は困る。幅広い商品を扱う金券ショップがなくなるのは痛い」と懸念する。