政府の新型コロナウィルス感染症対策の綻びが著しい。
4月7日の緊急事態宣言以降、宣言そのものが“引き金”となって都会から地方に移動する人の流れが加速し、無症状や軽症の感染者を“輸出”する悪循環が広がった。背景には、経済の悪化に拘泥して危機意識の薄い国の姿勢も影を落とす。政府内には緊急事態宣言の対象地域を全国に拡大する方針が急浮上したが、このままゴールデンウィークに突入すれば、地方から東京や大阪に感染者が逆流して大流行――そんな最悪のシナリオが現実味を帯びてきた。
鈴木直道知事の“苛立ち”
北海道は15日、空の玄関口である新千歳空港で国のサーモグラフィーを借り出し来道した乗客の体温計測に乗り出した。那覇空港でも沖縄県が到着客の体温測定を開始している。鈴木直道・北海道知事は16日、ツイッターに苛立ちを交えてこう投稿した。 © 文春オンライン 鈴木直道・北海道知事 ©時事通信社
〈本来は国がやるべきことですが、GW前にやれることからスタートです〉
こうした地方の動きが顕在化したのは9日、鈴木知事が赤羽一嘉国土交通大臣に直談判したことだ。「羽田空港でサーモグラフィーを」「発熱のある人は公共交通機関の利用を控えるよう呼びかけを」と具体策も建言してようやく国も動き出したが、16日現在、まだ羽田空港では実現していない。鈴木知事ら地方の首長の危機感は強い。
鈴木知事の足下が、再び感染拡大の波に襲われているからだ。
北海道を「第2波の危機」が襲っている
そもそも道は3月上旬まで、感染者数が最多の地域だったが鈴木知事が2月28日に法律に基づかない3週間の独自の緊急事態を宣言すると、道民の外出自粛が奏功。期間終了後の20日以降、新たな感染者は1日に実に5人以下に止まっていた。ところが――。
新入学や異動に伴って人が動いた4月2日からの1週間の新規感染者はずるずると増え26人。さらに政府の緊急事態宣言直後10人(8日)、18人(9日)、13人(10日)と目に見えて増加のトレンドは急になり、15日には1日あたり最多の23人の感染が確認された。「第2波の危機」として鈴木知事は秋元克広札幌市長と共同で緊急事態を再び宣言し、新学期をスタートしていた札幌市内及び一部近隣の小中高で再び一斉休校に踏み切った。
7都府県からの移動手段を制限する手立てがない
緊急事態宣言を引き金に帰省したり、厳しい自粛を逃れようとするコロナ疎開の流れが生じ、この流れがウィルスを運ぶ――こうしたリスクは、宣言前から懸念されていた。4月が新入学や会社の人事異動の時期でもあるからだ。
鈴木知事自身も会見で「飛行機、JR、フェリーといった陸海空すべての移動で徹底的な注意喚起をしてほしい」(4月1日定例会見)と繰り返し国に求めたのは、入り口である東京や大阪から出ていくところで押しとどめなければ、出口で降り立った人を地方の空港等で迎える時にはもう接触を回避する強い措置が取れないからだ。
しかし、7日の宣言時、安倍首相は「地方に移動するなどの動きは厳に控えて」と述べるのみ。緊急事態宣言の対象となった7都府県からの移動手段を制限する具体的な手立ては取られなかった。
この間、事態は悪化の一途を辿った。
道外から持ち込まれたウィルス
北海道旭川市では、東京都在住の20代の男性と妻が緊急事態宣言前日の6日に同市に帰省した後に次々に陽性と判明。航空機に乗る段階ですでに男性は発熱があり、妻には味覚と嗅覚障害の症状があり、市ではこの事実を確認後、移動に使った航空機の乗客やタクシーの運転手を特定して健康観察を求める事態になった。
また、3月に東京・渋谷のライブハウスに赴いた留萌市に住む40代の女性医療機関職員が4月8日に陽性と判明すると、その後の調査で同居する夫と娘の感染が判った。勤務先の病院は7日から休診になった。
11日になってようやく政府の対策本部で安倍首相は全国的に感染が拡大している事実を認め、接待を伴う夜の飲食については全国で自粛を求めることになった。修正策の当否は別にして、7日の基本方針からわずか4日で事実上、対策の不備を認めたかたちだ。
「地方から大都市に再流入しかねません」
鈴木知事は15日、直撃取材にこう述べた。
「3月下旬以降、感染の震源地は武漢からアメリカに移り、日本の東京や大阪はかつて水際対策の対象だった海外の諸国と同じ位置づけです。感染拡大を封じ込めるためには、緊急事態宣言と他の地域の移動自粛はセットであり、国全体として取り組まなければいけません」
その上でこう警告した。
「仮に首都圏が一時的に収束しても、東京に人が集まり、地方に帰るという動きがある限り、ウィルスは効率的に拡大してしまう。地域間の水際対策がおろそかな状態でゴールデンウィークに突入すれば、地方から大都市に再流入しかねません」
政府内では16日、緊急事態宣言の対象地域を7都府県から全国に拡大する動きが急浮上した。第3波を回避できるかどうか、今後の政府の動向に注目が集まる。
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(広野 真嗣/文藝春秋)