銅の殺菌力、育児施設に活用 流通・コスト…普及に課題も

優れた殺菌効果を持つとされる銅を、保育園などの育児施設に活用しようとする試みが動き始めた。銅の理解促進と普及を目指す社団法人「日本銅センター」(東京都台東区)は東京都内の保育園2カ所に、銅合金製の手洗い場などを提供。インフルエンザやノロウイルスなどの集団感染予防とともに、予防効果のデータ収集が狙いだ。センターは「効果が確認されれば、さらに銅設備の提供を拡大していきたい」と意気込みをみせている。(小野田雄一)
 ≪感染経路を遮断≫
 センターは今年6月、銅の殺菌効果を実証する「子どもを守る安全・安心プロジェクト」をスタートさせた。その一環として、銅設備の設置場所を提供する育児施設を募集。応募した「めじろ保育園」(八王子市)と「第二子羊チャイルドセンター」(三鷹市)に、銅合金製の手洗い場や配膳(はいぜん)台、配膳車、扉のプッシュプレート、調乳台、階段の手すりなどを提供した。
 めじろ保育園の柊沢(ひいらぎざわ)章次園長(55)は「インフルエンザなどの集団感染対策を模索していたところに、このプロジェクトを知って応募した。園児同士の直接的な接触を防ぐことは難しいが、銅設備を設置することで2次感染を少しでも減らしたいとの思いで参加した」と話す。
 プロジェクトに協力する北里大医学部の笹原武志講師(57)=微生物・寄生虫学=によると、銅と水が接触すると銅イオンが水中に流出。この銅イオンが細菌やウイルスなどの病原体を死滅させるという。
 笹原講師は「乳幼児は免疫力が低いうえ、保育園でほかの園児と長い時間生活しており、集団感染の危険性が高い。しかし、消毒薬や抗菌剤を多用すると耐性菌が生まれたり、本来は皮膚や体内に必要な菌までも取り除いてしまったりする」と指摘。そのうえで、「感染経路を遮断するという点では、銅は非常に理想的だ」という。
 ≪効果はデータ不足≫
 ただ、課題もある。センターによると、銅の特性の認知が進んでいない▽銅設備を製造している業者がなく、市場に出回っていない▽製造コストがステンレスやアルミに比べ、1・4~1・5倍程度かかる▽どれほどの感染予防効果が出たのか客観的なデータが不十分-などだ。
 センターのICA(国際銅協会)担当事務局長の和田正彦さん(54)は「今回のデータを検証して具体的な効果が判明すれば、協力してくれる施設のさらなる募集を考えている。将来的には保健所や厚生労働省、経済産業省との協力関係や、銅設備のサプライチェーンの構築を目指したい」と話している。
 ■多剤耐性菌への実験でも好結果
 日本銅センターは銅の殺菌効果を実証するため、さまざまな実験を行っている。
 病原性大腸菌O(オー)157を繁殖させたシャーレ内に銅板を置く実験では、銅板の真下の菌が死滅したうえ、銅板の周辺の菌は繁殖が止まった。銅、ステンレス、塩化ビニールの板にそれぞれレジオネラ菌を付着させる実験では、銅板では菌が500~600分の1以下に減少したが、ほか2つの素材ではほとんど減少しなかった。
 また、多くの抗菌薬が効かない多剤耐性菌の一種「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)」や鳥インフルエンザウイルスに対する実験でも、銅は高い殺菌効果を発揮した。
 こうした銅の殺菌効果が確認されたことで、米環境保護庁(EPA)は2008年、企業が製品に「銅・真鍮(しんちゅう)などは病原体を殺菌し、公衆衛生に効果がある」と表示することを法的に認めた。

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