長万部の名物駅弁「かにめし」JR車内販売廃止へ 店頭は継続

「原点失うのは寂しい」

 【長万部】JR長万部駅(渡島管内長万部町)で70年近い歴史を持つ「かにめし」が、駅弁としての役割に今月末で終止符を打つ。JR北海道が経費削減を理由に、車内販売を廃止するため。駅ホームでの対面販売から始まり、当時の味そのままに、できたての弁当を乗客に届けてきた。駅前で製造・販売する「かにめし本舗かなや」は、店頭販売は続けるが「原点の駅弁を失うのはつらい」と惜しんでいる。

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 かにめしは食糧難の終戦直後、地元で水揚げした毛ガニを塩ゆでし、ホームで手売りしたのが起源。乗客の評判を呼んだ同社の創業者が「漁期以外でも売れる弁当を」と各地からカニを集め、試作を50回以上重ねて1950年に生まれた。

 ご飯を覆うカニの身は、傷まないよう水分がなくなるまで大釜でいることで、独特の甘みと香ばしさを引き出す。錦糸卵やしいたけが彩りを添える弁当はホームで対面販売され、一躍人気に。列車が止まるたびに買い求める客でにぎわった。

 札幌―函館を結ぶ特急「スーパー北斗」などの停車時間が1分足らずに短縮されたのに伴い、98年からはホームでの販売を取りやめ、客室乗務員を通じて乗客の注文を電話で受け、車内販売するようになった。

 温かい状態で食べてもらうため作り置きせず、列車の停車10分前にホームに届くよう折り詰めし、列車に積み込む。現在は1日あたり特急5本を対象に1個1180円で提供している。

 しかし、JR北海道は道内で唯一、スーパー北斗で続けていた客室乗務員による車内販売を今月末で終える。長万部駅の「特製もりそば」、大沼公園駅の「大沼だんご」などとともに車内では買えなくなる。

昭和30年代、かにめしを求める乗客でごった返す長万部駅ホーム(かにめし本舗かなや提供) 知名度は全国区「伝統と誇りを守る」

 駅弁大会での優勝経験があるなど、かにめしの知名度はいまや全国区。道内外のスーパーや百貨店の催事などでも味わえるようになった。だが、創業者の孫で4代目の金谷圭一郎社長(45)は「駅弁として売ることを前提に、製法を変えず、容器も保存がきく木製にこだわってきた。その基盤を失うことになる」と嘆く。

 それでも「駅弁」としての形は変えない。「祖父の代から続く伝統と誇りを守る。何より、かにめしを愛してくれる全国のファンのためにも」(古田佳之)

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