“長持ち”で差をつけろ! 食品業界に新トレンド

電池、電球、制汗剤やファンデーションといった商品で、このところ目につくのが“長持ち“というキーワード。長引く不況で節約志向が高まる中、どうせなら少しでも長く使えるもの、効果が持続するものを求める消費者ニーズが背景にある。しかし食品の場合は賞味期限が決まっているため、商品そのものに長持ちをうたうのは難しい。そこに新たに登場したのが、賞味期限に関わらない、意外な“長持ち食品”。いったいどんな長持ちなのか、ビール、天ぷら油、ガムの3 ジャンルに探ってみる。
従来の約1.5倍、ビール並みの泡持ちの第3のビール
 サッポロビールが9月22日(水)に全国発売する『サッポロ クリーミーホワイト』のウリは“泡”。独自の「クリーミーテイスト製法」(特許出願中)という新技術で、同社の新ジャンル商品の平均値と比較して約1.5倍の泡持ちを実現した商品だ。
 ビールの泡は、酸化を防いだり、炭酸を逃がさないといった役割があり、うまさの重要な要素。ところが、第3のビールと呼ばれるビール風味の発泡アルコール飲料は、麦芽の使用量が制限されているため、泡立ちや泡持ちがビールに比べるといまひとつだった。麦芽は大麦を発芽させたもので、味わいのもととなる糖やアミノ酸が含まれているが、「クリーミーテイスト製法」は、麦芽にしない大麦からも、直接たんぱく質やアミノ酸を丁寧に取り出すというもので、雪のように白くクリーミーな泡は「現在、ビール並みの泡持ちを実現しており、更なる改良を目指しております」(同社広報室 松村桃子氏)とのこと。
 今回の開発は「いろいろな部署のメンバーが参加した社内プロジェクトでのアイデアが出発点です。第3のビールに対する消費者のニーズを味覚面と情緒面からそれぞれ抽出し、『ビール品質に近づけること』、『ビールが持つゆったりした時間を提供できること』、当社のイメージの核となる『北海道らしさ』を訴求するため、誰もが実感できる“泡“に着目しました」。北海道で育てられた“りょうふう”麦芽を配合するなど、原料にも北海道へのこだわりを込める。
 3月に近畿地区で期間限定発売した際には、発売5日で当初目標の5万函を達成。最終的には計画比150%の7万5000函を売り上げた。さらに中身・パッケージをブラッシュアップした今回の全国発売で、9月から12月の三カ月で150万函という目標を掲げ、同社の新ジャンル全体で対前年比2割増の売り上げを目指す。
 第3のビールの泡の長持ちに関しては、サントリーやキリンなどでも「大事な要素としてこだわりを持っているが」まだそうした新商品はない。他社に先駆けての発売だけに注目度も高まっている。
1.4倍「酸化に強い」長持ち油
 いち早く、09年に“長持ち“を商品名称に掲げた新商品が登場したのが家庭用食用油。『AJINOMOTO 軽~いおいしさ長持ち油』(J-オイルミルズ)だ。同社では07年から業務用の「長調得徳」シリーズで、特許製法によって同社の従来品の約2割程度、長く使える商品を販売してきた背景がある。また、08年9月の「リーマンショック」以降、強まる消費者の「節約志向」を受けて、家庭内調理の頻度が上昇しているという調査結果(09年3月同社調査)から、「くり返し揚げもの調理に使っても、“油っぽくなく、軽くておいしい”揚げものが出来る調理油を提供することで、調理機会を増やす消費者の要望に応えたいと考え」(同社 油脂開発企画室 脇嶋洋介氏)、開発に至った。
 軽いおいしさを長持ちさせるため、「あっさり軽いキャノーラ油と酸化に強い高オレイン酸キャノーラ油、使い込んでもべたつきにくいパーム油(中でも特に低温でも固まりにくい特長を持つ)を活かした」独自のレシピを完成。これによって、「キャノーラ油」に比べて、1.4倍の酸化安定性を持つ「酸化に強い」油となった。また「劣化臭が少なく、くり返し使っても着色が進みにくい」ことで、揚げ物調理の不満も軽減している。わかりやすい商品名から消費者の反響もよく、特徴の実感度の調査では「くり返し使えてお得」73%、「油を捨てる回数が減らせる」70%、「くり返し揚げもの調理に使っても、あっさり軽いおいしさが長持ちする」70%と、“長持ち”という特徴が高評価を得ているという。
ガムは新たな長持ち戦争に突入
 こうした“長持ち”食品の中で、この夏、最も熱い戦いが繰り広げられているのが、ガムだ。これまでにもガムを販売する各社は、味や機能性とともに「味が長く持つ」ことについても追求を続けてきた。
 2003年には、キャドバリー・ジャパンが、マイクロカプセルに配合した甘味料やフレーバーを徐々に放出することで味を長持ちさせる「ロングラスティング製法」を、「クロレッツ XP」シリーズに導入。各社とも同様に味が長持ちする研究を重ねてきたが、09年にそれまでと比較して約1.5倍の味もちを実現し「息スッキリ&味長持ち」というコピーを掲げたのが明治製菓の『キシリッシュ』だ。
 同じく09年に発売されたロッテの『Fit’s』シリーズも「味の持続性とボリューム」を特徴のひとつとする製品だが、今年、5月に発売した『Fit’s LINK〈オリジナルミント〉〈ノーリミットミント〉』は、カプセル技術とクリーングエンハンサーというダブルの効果で、清涼感とミント味の持続効果をより強めたもの。
 ロッテ 広報・宣伝部広報担当の中村一郎氏によると、「カプセル技術を使用することで、香料をガムに直接入れた品質に比べて時間差で味を出すことが可能なため、ミントの味を長続きさせることが出来ます。クーリングエンハンサーはより強い冷感に対しての研究によって近年開発された、苦みが無く強い清涼感を持つ素材で、口中の冷涼感を持続させる効果があります」とのこと。この特徴をさらにアピールするため、第三者調査機関の協力を得て消費者調査を実施。その結果、7 月26日から「味、長続き40分!」というコピー入りのパッケージにリニューアル発売。持続時間を数値で表記する手法をとった。
 味の持続時間は個人の感覚に負う部分が多く、これまでこうした数値を掲げるのは難しかったが、ここに圧倒的な自信を持つのが、キャドバリー・ジャパンの『クロレッツ XP 』だ。8月2日、『クロレッツ XP 』を、「味が30分長持ち」という持続時間を前面に打ち出し、リニューアル発売。CMやキャンペーンなどで認知を高めている。
 「ガムにとって“味が長持ち”は永遠のテーマ」というのは、クロレッツを販売するキャドバリー・ジャパンのマーケティング本部 ブランドマネージャー 内山元春氏。クロレッツXPは、すでに前回のリニューアル時に、前述した「ロングラスティング製法」を採用し、7年連続で2ケタ成長を続ける同社の主力製品。今回の発売25周年に際して、具体的な「30分」という味の持続時間を目標に掲げ、開発を開始した。
 30分という時間に関して同社では「ガムをよく噛む人は、平均して20分弱、噛み続けていることがわかっていました。そこで、いま噛んでいる時間より、長く味が続く驚きを打ち出したかった」と、これまで同社が培ってきた技術をさらに発展させ、独自の「ダブル・カプセル」を開発。ガム内の“味長持ちカプセル”で濃縮した味成分を、ガムを噛むたびにじわじわと時間差で放出する。また味成分自体も増量したことで、長持ちが実現したという。
 ロングセラー製品として既存のユーザーがいる中、 従来品の味や噛み心地を変えず、舌触りなどを綿密に調整しながら実現した“30分”は、通常の倍以上の消費者テストを重ね、96%の人から「噛み始めて 30分経過した後も味が続いている」という回答を得た自信の数字だ。実際、通勤中に噛んでみると、30分過ぎてもまだ捨てるのがもったいないほど、味が継続していることを実感できる。
 内山氏は「30分という数字は反響も大きく、手応えも感じています。とにかく一度噛んでいただければ、30分の味とさわやかさの長持ちを実感していただけると確信しています」と自信のほどを語る。
 こうしたガムの味長持ちの背景には、各社、ガムの購買頻度が落ちてきていることをあげ、30代のビジネスマンを中心に、仕事やドライブの気分転換に長持ちするミント味のガムの訴求を図る。禁煙ブームをすすめるとみられる今後のタバコ税の値上げなどが、そうした傾向に拍車をかける可能性もある。当分、長く味のある戦いが続きそうだ。
 こうしてみてみると、“長持ち“という視点は、商品の差別化につながるだけでなく、どれも消費者ニーズの分析から抽出された、それぞれの製品が本来持っている特徴を強化したもの。こうした企業努力や技術開発こそ、ぜひ“長持ち”してもらいたいものである。
(文/波多野絵理=フリーライター)

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