“長生きリスク”から身を守るなら「平均寿命」と「健康寿命」の差を知るべし

今や「100歳まで生きる」という前提で「年金だけではいくら足りないか」を考える時代になった。ここで気をつけたいのは、みんながみんな100歳まで普段どおりの暮らしができるのか、ということ。年齢を重ねるごとに病気は増え、体の自由がきかなくなっていく。動けなければ、貯金で暮らすしかないという現実――。今回は、アエラ増刊『つみたてNISAとiDeco入門』から、平均寿命と健康寿命の差について詳細に検証した記事を紹介しよう。

■長生きリスク、老後破産、下流老人の可能性が、あなたにも

医療の進歩や介護制度の整備で、“人生100年時代”がすぐそこまで迫っている。頭をよぎるのは、「昔よりも長生きができて幸せ」という充足感より、「そんなに長生きして、お金は足りるのだろうか、大丈夫なんだろうか」という不安や焦りではないだろうか。

ちまたでは「長生きリスク」「老後破産」「下流老人」といったネガティブな言葉が広く流布するようになった。他人事ではない。

40代、50代の高齢者予備軍の間では、「年金支給開始年齢がいずれは65歳どころか70歳、75歳まで引き上げられる」といった懸念も根強い。頼みの綱である年金制度の見通しが不透明である以上、長生きリスクに備え、なるべく早い段階から老後資金を確保する手段を探すことが急務といえる。

とはいえ、空前の低金利が続いていることもあり、「貯蓄」だけでは心もとない。退職金が多くもらえる企業に勤めているならまだしも、現在は退職金制度そのものを廃止している企業も多い。やはり株式や投資信託など「投資」にも目を向ける必要があるだろう。

■何歳まで生きるのか

人生100年の時代……それは、「自分はいったい何歳まで生きるのか」を絶えず自問自答せざるをえない時代のことかもしれない。何歳まで生きるかは誰にもわからないが、とりあえず長生きする前提でマネープランを考えたほうがいい。

まずは「定年退職した後、もらえる年金はいくらか」「収入と支出を比べて、月々いくら足りなくなるのか」を冷静に見極めることが、“長生きリスク”から身を守る第一歩になる。

ファイナンシャルプランナー、税理士として、定年退職者の資金プラン作成や年金・相続相談を数多く手がけているUFPF代表の西原憲一さんは、「老後生活については心配しすぎるくらいで、ちょうどいいのかもしれません」と警鐘を鳴らす。

「戦後70年で日本人の平均寿命は30歳以上延び、男性が約81歳、女性が約87歳まで上昇しています(厚生労働省発表の2016年データ)。16年生まれで90歳まで生きる確率は男性で約26%、女性では約50%。老人福祉法が制定され、年齢に関する調査が始まったのが今から50年以上前の63年なのですが、当時100歳以上の高齢者はたった153人でした。それが17年9月時点で史上最多の6万7824人に達しています。このペースでいくと、45年には日本人の平均寿命が100歳に到達するという予測もあるほど。長生きすればするほど、生活費がたくさん必要になるわけで、“長生きリスク”が意識されるのは当然のことです」

注意しなければならないのは、平均寿命と健康寿命に大きな差があることだ。

■健康寿命は10年短い

「厚労省の試算によると、日本人の男女が元気に暮らせる“健康寿命”は、13年時点の調査で男性が約71歳、女性が約74歳です。男性がほぼ81歳、女性が87歳に達した平均寿命に比べて、10年以上も短い。健康寿命に達した後の人生は『日常生活に制限のある「不健康な期間」』と定義されていますが、その期間は男性で10年弱、女性で実に約13年に及びます。健康であれば働いて収入を補完することができますが、不健康な状態では年金や社会保障の収入だけに依存した生活になってしまいます」

リタイア後、どの時点で病気になるかを予測するのは困難だ。しかし、平均的な日本人が、不健康な老後生活を10年以上も過ごしている現実を考えると、その期間の医療費や介護費用など、不意の出費に対する余裕資金も手厚く準備しておきたい。(経済ジャーナリスト・安住拓哉)

 

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