長辻象平 チェルノ風・減放射能レシピ

 野菜や肉から放射性セシウムなどを除去する調理法があるのを、ご存じだろうか。
 温水で洗い、お湯で煮るといった簡単な方法で、食品を汚染している放射性物質のかなりの部分を取り除けるという。日本原子力産業協会(原産協会)のホームページで見つけた。
 原産協会は、今回の東京電力福島第1原子力発電所事故についても、原子炉の現状などを簡潔にまとめて国内外への情報発信を続けている。
 事故直後は、政府の手が国際社会への広報に回らず、国際原子力機関(IAEA)も原産協会からの情報を参考にしていたと耳にしている。
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 この協会のワンポイントコーナーで見つけたのが料理のアク抜きにも似た放射能減らしの方法だ。セシウム137やヨウ素131、ストロンチウム90などの濃度を大幅に下げられる。
 食品は、ネギやジャガイモ、ニンジンからキノコやイチゴ、さらには肉、魚などまでとさまざまだ。
 肉や魚の場合は、食塩水や酢に浸してもよし、凍結処理も有効。野菜や果物は塩漬けにすることでも減らせるという。
 また、インゲン豆やサヤナシエンドウ、ホウレンソウは、セシウムの体内蓄積を防ぐのに有効とされている。チーズはストロンチウムの体内蓄積減少のほか、放射線に対する抵抗力もつけるということだ。
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 この家庭でできる放射能の低減法、じつは今年で満25年を迎えたチェルノブイリ原子力発電所事故への対応からの産物なのだ。 地元・ウクライナの放射線防護学の研究者らが、放射能に汚染された地域に暮らさざるを得ない人々のために「チェルノブイリ:放射能と栄養」という小冊子を執筆した。1994年のことである。
 放射線についての知識や人体への影響、被曝(ひばく)線量などについての諸情報を提供するこの冊子には、食材の加工法、調理法が載っているのが特徴だ。食物からの内部被曝を減らすための知恵と工夫に満ちている。
 国際赤十字社などの援助で住民に無料配布されたこの冊子を、チェルノブイリの共同研究で現地を訪れていた白石久二雄さん(当時、放射線医学総合研究所に在籍)が日本語に翻訳し、国内では2000年に出版されている。原産協会のホームページには、そのさわりの部分がコラムの形で紹介されていたのだった。
 キノコから放射能を抜く手法は私も知っていた。事故後20年の取材でチェルノブイリ原発を訪れた際、国連開発計画(UNDP)の職員が話してくれた。現地では小学校で児童に教え、各家庭に普及させる方法を用いていたのが印象的だった。
 現在の日本には、放射能事故で先行したチェルノブイリから学ぶべきことが数多い。しかし、政府はそこまで気が回らないらしい。それどころか、恐怖心をかき立てるかのような対応さえ目立つ。減放射能のレシピに関心を持つ国民も少なくないはずなのだが。

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