日本三景の一つ、特別名勝松島での防潮堤整備に関連し、宮城県が景観維持と安全確保の両立に腐心している。県は見た目に配慮した部材を活用するといった工夫を凝らすものの、地元ではかさ上げによる眺望への影響を心配する声もくすぶっている。(片桐大介)
県計画によると、松島エリアの防潮堤は海抜7.2~2.1メートル。シミュレーションに基づき、数十年から百数十年に一度襲う津波を防御できる高さに定めた。
防潮堤は外洋側ほど高く、松島港など湾奥は低くなる。設計上の違いについて、県河川課は「点在する島が津波の威力を弱める効果がある点を考慮した」と説明する。
特別名勝地は本来、建造物の増改築の際は国の許可が必要となる。国は2013年度、復興工事を加速化させる目的で、一部区域を除いて県と塩釜、東松島両市への権限委譲に踏み切った。
防潮堤を景観と調和させようと、県も他地域にはない配慮を見せる。コンクリートの表面に天然石や模造石を貼り付けたり、着色したりして、より自然な外観を追求する方針だ。
エリア内では16年度までの完成を目指して急ピッチで工事が進むが、かさ上げに伴う景観悪化への懸念は根強い。
東松島市のNPO法人役員飴屋善太さん(26)もその一人。「景色が好きで住み着いたのに…」と不満を隠さない。
NPOは現在、市内の東名地区でデイサービス施設を運営している。施設近くの長石海岸では、海抜3.1メートルの防潮堤が1.2メートル引き上げられる計画になっている。
東名地区は西側の松島湾ではなく、東側の石巻湾からの津波に襲われた。飴屋さんらの不満の背景には「西側にある東名地区の海岸を強化しても、防災力は上がらないのでは」との疑問がある。
これに対し、県は「高潮の波しぶきから家屋や農地を守るためにかさ上げは不可避。地元で説明会も繰り返している」と理解を求める。
文化庁の担当者は「復興工事のため景観が変わるのは仕方ない面がある。特別名勝の価値が損なわないようにフォローしていく」と話している。
[特別名勝松島]宮城県内の松島湾と湾内の離島を含む塩釜、東松島、松島、七ケ浜、利府2市3町の約1万2600ヘクタールのエリアを指す。文化財保護法に基づき国が1952年に指定した。塩釜湾と七ケ浜町の一部臨海部は除外されている。特別名勝は現在、松島を含め全国に36カ所ある。