感染拡大を続ける新型コロナウイルスの対策の柱が「水際阻止」から「重症化予防」へと移りつつある。厚生労働省は重症化リスクを抱える高齢者や持病のある人を優先して治療する医療態勢の整備に着手したが、現場の医療機関には院内感染の危険性もはらんでいる。重症者の増加を見据え、対応を迫られる一般病院からは患者受け入れに不安の声も上がる。
「受診される方が、(新型ウイルスの)感染症だと分からないで来ることもあり得る。準備ができていないと、院内感染を起こしてしまう恐れが強い」。日本医師会常任理事の釜萢(かまやち)敏氏は18日に開かれた厚労省の専門家会合で、現状への危機感をにじませた。
前日には、厚労省が発熱などの症状が出た場合の「相談・受診の目安」を公表。一般的には「37・5度以上の熱が4日以上続く」などとした一方、重症化しやすい高齢者や持病のある人は「2日程度」とし、専門外来などで優先して診療に当たる方針を示した。
ただ、新型ウイルスの初期症状は風邪やインフルエンザと似ているため、感染の自覚がない患者が一般外来にやってくる可能性がある。そうなれば、待合室で感染が蔓延(まんえん)したり、医療関係者が知らぬ間に患者と接触したりする恐れもある。
国内では、すでに院内感染が疑われる事例が相次いでいる。「済生会有田病院」(和歌山県湯浅町)で、男性外科医の感染が確認されて以降、医師やその家族、入院患者らに感染が拡大。新型ウイルスに感染して死亡した80代女性が入院していた「相模原中央病院」(相模原市)でも担当の女性看護師が感染。その後、入院患者らにも広がった。
有田病院関連では、感染者が10人以上に膨らんでいるが、この地域へのウイルス流入の経緯は依然として判明していない。こうした感染経路の分からない患者の増加は、国内流行の“引き金”となりかねない。厚労省はさらなる感染拡大を想定し、一般病院でも患者の受け入れは可能としているが、態勢は万全とはいえない状況だ。
千葉県内にある総合病院は保健所の要請で、紹介で訪れた人のウイルス検査を担う。だが施設の構造上、入院患者の受け入れ態勢が整っているとはいえない。感染者が搬送されてきても、一般患者と別の動線で病棟まで運べない。治療に着用が必要となる防護服の扱いも、全てのスタッフが日常的に訓練を受けてきたわけではない。
ウイルスを封じ込める隔離用の陰圧室のある病床は、感染症の指定医療機関であっても数床のところが多い。限られた集中治療室のベッドが新型ウイルスの感染者で埋まれば、一般患者を診ることができなくなる恐れもある。
「透析患者などはインフルエンザにかかるだけでも重症化の恐れが高まる。この新たな感染症が院内に入ったとき、引き起こされるリスクは計り知れない。今のままでは現場は『裸で戦え』といわれているのと同じ。国は一般病院でも患者を安全に移動、診療できる具体的なプランを早急に示してほしい」。同病院の男性医師はそう訴えている。