難民流入で欧州分裂も、極右台頭し政治「冬の時代」に

[ブリュッセル 20日 ロイター] – ポルトガルからスウェーデンまで、欧州諸国は統治が難しくなりつつあり、経済改革の実行は一段と難しさを増している。金融危機が長引いた結果、各国の政府は弱体化し、政権内の分裂も深刻化しているためだ。

【写真】まるで川の流れのよう、小国スロベニアに流入した難民たち

それに拍車をかけているのが、中東やアジア、アフリカの内戦や貧困から逃れようと欧州に殺到する移民・難民の存在だ。難民らの大量流入で反移民を掲げるポピュリストが勢いを増し、伝統的な政党が失速している。

難民の流入が深刻になる以前には、中道右派政党がユーロ圏金融危機の恩恵を受けて支持を集めてきた。ところが今では、急速に台頭する極右政党や欧州連合(EU)懐疑派の主張を無視できなくなっている。

米銀行シティの世界政治担当のチーフアナリスト、ティナ・フォーダム氏は「欧州では全般的に経済が成長を再開しているが、伝統的な政党以外のものを求める声が強まっている」と指摘。「その背景にあるのが、政府のみならずエリート層全般に対する不信感だ」と話す。

今年に入って実施された西欧の選挙では、ギリシャを除いて財政緊縮策の導入を主導してきた中道右派政党が勝利する例が大半を占めた。ただ勝利はしたものの議席を減らすなど、中道右派の退潮も鮮明になっている。

19日に総選挙があったカナダの例でも示されたように、経済面の成功が必ずしも政治的に報われるわけではない。欧州の多くの国では、経済ではなく難民への警戒感が投票行動を左右するようになっている。

シティのフォーダム氏は「今後の欧州の選挙では、経済ではなく難民問題が主な争点になる」と見る。

ドイツではメルケル首相の支持率が難民問題を受けて低下していおり、フランスでは反移民を掲げる国民戦線が国民の人気を集めている。

<極右に引きつけられる有権者>

金融危機後の今日の欧州で見られる政治的な両極化や、2大政党制の崩壊について考える上で、ドイツのIFO経済研究所が最近公表した調査リポートが興味深い。これは過去140年間にわたって、金融危機後に20カ国の先進国で行われた800以上の選挙を分析したものだ。

リポートによると、金融危機後に政府が軒並み弱体化した結果、危機の解決がますます困難になるケースが顕著に見られたという。

リポートは「主な発見は、金融危機後には政権与党が議席を減らし、両極化が深まる中、政治的な不透明感が高まることだ」と指摘。

「有権者は危機後、問題の責任をマイノリティーや外国人に押しつけることが多い極右の主張に引きつけられるようだ」と分析した。実際、調査リポートによると、極右政党は金融危機後の5年間に実施された選挙において、得票シェアを平均で30%も伸ばしていることが分かった。

リポートは結論として、有権者は金融危機後、国粋主義や外国人排斥を主張する極右の主張に同調しがちになり、政治的な分裂拡大で統治が一段と難しくなり、デモが急増することが多いとした。

ユーロ圏債務危機からまだ十分に回復しない段階で、第2次世界大戦後以来で最大規模の難民が押し寄せている現状を踏まえると、調査リポートが指摘しているようなトレンドが今回も起こる可能性は大きい。

<既存政党の退潮鮮明>

ユーロ圏債務危機に苦しんだポルトガルの政局を例にとると、今月実施された総選挙では中道右派連立与党が勝利したものの、過半数議席は確保できなかった。議席をわずかに伸ばした野党の社会党は現在、政権獲得に向けて共産党や急進左派との連携を模索しているとされる。

スペインのラホイ首相が率いる与党の国民党は、12月20日の総選挙で過半数を大幅に割り込む可能性が高いと見られる。

このように、欧州の多くの諸国で政府が弱体化すれば、難民の受け入れを国民に納得させることがさらに困難になる。その結果、難民支援の金銭的な負担をめぐって、他のEU諸国との対立が激化しかねない。

専門家らの多くは、亡命・移民受け入れ政策の大胆な改革がユーロ圏に必要だと訴えるが、政治力が低下すれば改革の実行はおぼつかないだろう。

欧州政策センター(EPC)の調査ディレクター、ジャニス・エマヌイリディス氏は、今後数年のEUの政治に期待できることはせいぜい「後手後手に対応しながら、何とかやっていく」くらいだと語った。

(Paul Taylor記者 翻訳:吉川彩 編集:橋本俊樹)

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