モビリティに関する最新の技術やデザインなどを紹介する「ジャパンモビリティショー ビズウィーク 2024」(10月15~18日)を取材した。超小型モビリティの機運の高まりを感じたわけだが、その中でも印象に残った乗り物を紹介しよう。
「この3日間、お昼休憩もトイレもまったく行けてません」。笑いながら、3日間の反響ぶりを答えてくれたのは、次世代のパーソナルモビリティを開発している企業、テムザック(京都市)の説明員だった。「ロデム」と名付けられたそれは、どんな人でも移動を楽しめるスマートモビリティだ。
分かりやすく例えるなら、後方から乗り込む方式の電動車椅子だった。筆者は以前から、車椅子は足腰が弱い方、下半身がまひしている方、けがや病気の方が利用するものなのに、後方へ腰を下ろすのは不安が伴うのではないかと思っていた。
もちろん日常的に繰り返している行為であれば、慣れが解決する部分もあるのだろう。腕の力が十分にある身体障害者であれば、なんてことないのかもしれない。だが、近年高齢者が増加している状況では、車椅子の乗り降りにさえストレスを感じる人が増えているのではないだろうか。
しかしロデムなら、少しは歩ける人であれば、後方から手すりにつかまりながら前進して乗り込める。しかもシートの高さが変更できるため、床に置いた状態で後方から乗り込むだけでなく、ベッドの高さに合わせることで、座ったまま滑り込むように乗り込めるよう工夫しているのだ。
これは実に画期的で、電動車椅子を再定義したと言ってもいいほどの出来栄えに見えた。このロデム、長年にわたる開発でここまで形状や構造が進化したそうだ。これから観光地などでシェアリングサービスの実証実験に入るそうだが、普及を期待したいモビリティだ。
●快挙を成し遂げた先進技術も出展
スタートアップブースでは、自社の商品を熱っぽく語る説明員がズラリと待ち構えていた。これは、今までの自動車技術系の展示会では感じなかった熱量だ。
スタートアップはビジネスのアイデアと元気が取り柄だと言ってもいいが、3日間の開催であまりの引き合いに勢いづいているのだろう。次々と訪れる来場者に声をかけ、説明を行っていた。
ディーラー向けにオンラインの新車販売システムを提案している企業もあった。すでに導入しているところもあるらしく、人材不足や集客に悩みを抱えている販売店にとっては新しい武器となるのだろう。韓国・ヒョンデのようにネット販売から実店舗併用へと逆行しているケースもあり、クルマの販売も今後ますます多様化していきそうだ。
そして、物流の2024年問題が徐々に表面化している中、物流関係のスタートアップ企業の出展もあった。軽貨物などの小規模なトラック事業者(個人事業主も含む)と荷主をマッチングさせるチャーター便のサービス「ピックゴー」を運営するCBcloud(東京都千代田区)は、宅配企業のエコ配と合同でブースを展開していた。
それは、CBcloudが展開している物流DXのシステム「スマリュー」をエコ配が利用しており、両社には競合領域もほとんどないからだ。エコ配は大手宅配業者の半額という料金の安さをうたうサービスで、東名阪の3大都市にエリアを限り、荷物の大きさも限定することで、配送車両や配送センターを小型化して効率を高めている。
アプリで集荷に対応できるところが限られるなど、まだまだ発展途上な印象は否めないが、それだけに今後の成長も期待できる。
船舶の揺れを研究している東京海洋大学の渡邉豊教授は、揺れと重心の連携からヒントを得て三次元重心検知理論を考案した。これはあらゆる乗り物に適用できるものとして、トラックの横転限界を検知するシステムを開発し、今回、模型をブース展示していた。
この三次元重心検知理論は、米国政府が主催するESV国際会議2023(第27回自動車安全技術国際会議)の中で開催された学生安全技術デザインコンペティションで優勝したそうだ。これはアジア初の快挙であり、もっと注目されるべき技術と言っていい。
●特定小型原付は経済を潤すか、停滞させるか
スタートアップブースでも、特定原付のマイクロモビリティを開発、もしくは輸入販売している企業が目立った。glafit(グラフィット)など、すでにマイクロモビリティで実績を上げて知名度もある企業も含まれるから、なおさら目立つのだろう。
電動スケートボードと電動キックボードを並べていたのは、富山県のスタートアップ企業、イーモビ。
電動アシストスケートボードはコントローラーによって速度を調整するのではなく、蹴った力を維持しようとする程度のアシストで、通常のスケートボード同様、公道では利用できない玩具だ。これはスケボー初心者用ではなく、サーフィン愛好家のオフシーズン練習用なのだとか。
同社が扱う電動キックボードは公道走行可能な特定原付だが、こちらでは自賠責に加入してナンバー登録した後でないと納品しない。つまり、法令に違反してナンバーを取得せずに公道で乗り回すことができないように、登録後でなければ納車しないそうだ。
そもそもキックボードはスケボーを乗りやすくするためにハンドルバーを取り付けたもので、それを蹴り続けずに進めるようにしたのが電動キックボードである。手軽に移動の足として使うには、段差の多い公道でバランスを取り続ける必要があるなど、自転車に比べて乗りこなすハードルが高い。
単に小型軽量というだけで普及させてしまったことに問題があり、手軽に手に入ることで法令順守の意識が薄い消費者が乗り回してしまう危険性が高い。同社のような販売方法を広めることが交通安全につながりそうだ。
同社では電動アシスト自転車も取り扱っている。これもちまたで問題視されているファットバイク(太いタイヤのマウンテンバイク)のフル電動自転車と同じデザインながら、スロットルグリップを取り付けておらず、電動アシスト機能しか有していないというものだ。このように真面目なビジネスでユーザーを育てる企業が成長してほしいと思わされた。
一方で、ソニーのブースはものすごい人気で、入場制限が行われていたため、ブース内の取材はできなかった。CEATEC2024が同時開催だったことから、イメージセンサーなど半導体関係の展示も多かったようだが、クルマに関する展示もあった。
それが車体をイメージしたケージ状の展示物だった。けれども車内のモニターには、レーザーセンサー技術「LiDAR(ライダー)」とカメラによる前方の情報が映し出されただけで、自動運転で移動中の車内でどう過ごすかという課題への提案には程遠い内容だった。
いささか筆者の期待とはズレていた。やはり自動運転での移動中に新たな価値を見いだすのはソニーといえど難しいのだろう。それだけに難産の末に生み出されたものを見てみたい、という思いがよぎった。
●最新のグリーンスローモビリティ
ベンチャーというにはすでに規模が大きいEVメーカー、タジマモーターコーポレーション(東京都中野区)は、住友三井オートリース(東京都新宿区)のブースに新型のグリーンスローモビリティ用のEVを展示していた。
住友三井オートリースは、その名の通り、企業に車両をリース販売している企業だが、昨今の自動車業界の激変ぶりに対応するべく、さまざまな自動車ビジネスへと拡大中だという。その一つが自動運転のコミュニティバスとグリーンスローモビリティだ。
自動運転バスやグリーンスローモビリティは全国に拡大中だが、タジマモーターはグリーンスローモビリティ用の新型車両を展示した。
「新型車両は国内で生産しています。それと従来車両で要望の多かったエアコンも装備して、より快適に移動できるようにしました」と説明員。
従来よりフロアを低床としながらシャーシの剛性を確保するなど、開発には難しい局面もあったらしい。それでいて価格は約800万円からと、輸入して改造した従来車両と比べるとリーズナブルになっているようだ。
今回のジャパンモビリティショービズウィークでは、日本のスタートアップの個性と元気ぶりを感じ取ることができた。製造業は中国や新興国などに拠点を奪われてしまった感があるが、まだまだ日本国内でも対抗できそうな勢いが伝わってきた。
また、最近は電動キックボードの無法ぶりが目立ち、フル電動自転車(モペッド=原付という認識に改められつつある)もナンバーなしのノーヘル状態で、相変わらず走り回っている。このあたりを解決する方策が見えてきたのも収穫であった。
(高根英幸)