電子書籍カフェで「読まず嫌い」払拭 ノマドワーカーなど利用増加

 コーヒーを飲みながら気軽に電子書籍に触れることができるカフェが、東京都内を中心に広がっている。コンテンツが増え、市場は拡大している電子書籍だが、日常的に利用している人はまだ少数派。出店の背景には、飲食とともに電子書籍を体験してもらうことで、“読まず嫌い”も多い現状を打破しようという狙いがありそうだ。(戸谷真美)
 東京・市ケ谷の大日本印刷本社ショールームの一角にある「honto(ホント)カフェ」。広々としたスペースに散らばるテーブル席やカウンターには、iPad(アイパッド)をはじめとするタブレット端末が計28台あり、ベストセラー小説や漫画、絵本など170冊以上の試し読みが可能だ。ドリンクのほとんどが200円台と手頃で、女子栄養大とコラボしたランチメニューは、近隣のOLらに人気だという。
 同店は昨年1月にオープン。電子書店などを手がける同社hontoビジネス本部の木佐貫貴子さんは「個人向けの事業が増え、生活者との接点が必要だった。気軽に体験できる場をつくることで、読みにくさや不便さも含めて、電子書籍に触れてもらえれば」と説明する。店内には端末の操作方法を教えてくれるガイドも常駐。ガイドの女性は「文字を大きく変えられることなど、初めての方に伝えると便利さをわかってくれる」という。地下には国内外の電子絵本を集めた「デジタルえほんミュージアム」もあり、親子連れが多く訪れているという。
 今年5月に渋谷にオープンした「楽天カフェ」は、通販サイト「楽天市場」をはじめとする同社のサービスを体験できるカフェだ。全席に電源と無料の無線LANが設置され、1階全席と2階席の一部にある同社の電子書籍端末「kobo(コボ)」では、ファッション誌などの雑誌を無料で閲覧できる。
 ◆新たな差別化も
 東京・日本橋浜町の「BOOKSHELF CAFE(ブックシェルフカフェ)」は、ウェブ制作などを行うフォーシーズンズ(埼玉県志木市)が運営。平成23年にオープンした同店の戸島裕介店長は「街中で気軽にiPadや電子書籍に触れられる場所にしたいと立ち上げた」と話す。店内に13台あるiPadには新聞各紙の電子版のほか、週刊誌や経済誌など雑誌の読み放題アプリが入っており、自由に利用できる。
 女性客が中心だが、電源やネット環境が完備されているため、オフィス以外の場所で働く「ノマドワーカー」の利用も多い。戸島さんは「開店当初に比べ、スマートフォンやタブレット端末はかなり普及した。最初のコンセプトは大切にしつつ、新たなサービスや差別化も必要になってきている」と分析する。
 ◆コミックに集中
 こうしたカフェが広がる背景には、電子書籍市場の成長が続く一方、日常的な利用者はまだ少ない現状がある。
 矢野経済研究所の調査によると、平成25年度の電子書籍の市場規模は小売価格ベースで前年度比約20%増の850億円。小説や実用書の分野でさらに電子化が進むとみられる26年度は1050億円まで拡大すると予測する。ただ、市場の約8割は漫画が占め、「巻数が多いコミック分野で過去の作品が電子化され、読者がまとめ買いするケースが多く、市場を牽引(けんいん)している」(同研究所)という。
 一部のユーザーのまとめ買いが成長を後押ししているものの、紙の本を愛する読者には広がりにくい側面がある。hontoビジネス本部の木佐貫さんは「『知ってはいるけれど、何となく読まない』というのが電子書籍。ただ、時間を選ばずすぐに読める、雑誌ならバックナンバーも簡単に探せるといったメリットもある。紙か電子かの二者択一ではなく、両方をうまく活用してもらえるような提案を考えていきたい」と意気込んでいる。
 ■依然8割「利用しない」
 ネットリサーチ会社のマイボイスコム(千代田区)の調査(今年7月、1万920人回答)によると、コンテンツの有料・無料にかかわらず「電子書籍を利用しない」と答えた人は79.2%に上る。2年前の調査からは5ポイント程度減ったが、依然として利用する人は少数派だ。
 利用しない理由としては、「読みにくそうだから」(35歳男性)、「目が疲れるし、読んだ気がしない」(32歳女性)といった意見に加え、「サービスが終了したら読めなくなるのではないかと心配だから」(23歳男性)という声が聞かれた。

タイトルとURLをコピーしました