今、日本のアイドルたちの働き方が問われている。ももいろクローバーZの有安杏果が1月15日に卒業発表をすると、1月31日には乃木坂46の生駒里奈が同グループからの卒業を発表。昨年は、でんぱ組.incの最上もがが体調不良を理由に脱退、AKBグループでもHKT48の兒玉遥、AKB48・チーム8の早坂つむぎ、乃木坂46の北野日奈子らが相次いで休業を発表。いまなぜ、アイドルたちの休養・卒業が連鎖しているのか、その要因を考える。
【貴重ショット】7年前…オーディションを受けた当時15歳の生駒里奈
■24時間、私生活のすべてが仕事に!? 今も昔もアイドルはストレスとの戦い
今昔を問わず、トップアイドルともなれば寝る時間もないほど忙しいというのは基本認識だ。1970年代後半のモンスターアイドルデュオ・ピンクレディーは「1日の睡眠時間は多くて1時間半」、「忙しすぎて当時の記憶がスッポリ抜けている」と振り返った。80年代の伝説の高視聴率歌番組『ザ・ベストテン』(TBS系)では、アイドルが海外や地方に行ってスタジオに来られない場合、移動中の新幹線や駅のホームで歌を中継するといったシーンがよく見られたが、当時のアイドルの忙しさを象徴する映像だと言えるだろう。
そんなかつてのアイドルたちは、まさに“選ばれし者”の代表でもあった。ファンにとって手の届かない“神聖”な存在であり、ファンとの距離が遠ければ遠いほど後光もさし、プレミア感があったのも事実。ところがおニャン子クラブ登場以降、アイドルは“一般人化”し、1990年代のアイドル冬の時代を経た後は、“会いに行けるアイドル”としてAKB48が誕生。アイドルは手の届かない神聖なものから、“すぐに会える”親近感が沸く存在へと変化した。
では、今のアイドルたちが忙しくないのかと言えば、そんなことはない。初のドラマ単独出演を果たした乃木坂の生駒は1月25日、自身のブログで「毎日心が千切れるくらいです」と明かし、「1個の事に集中したら結構いい感じになる人なのですが、それだけじゃダメだってのもわかってるのですが、天才に生まれてないからさ、これは時間かかるのですね」と演技に対する不安や葛藤を露わにした。実際、アイドルたちは歌やダンス以外に演技力やバラエティ番組での対応力など、様々なスキルを求められている。しかも自身のSNSなどの更新に関しても、自分という“商品”をPRするための仕事である要素が強い。今も昔もアイドルになる以上は、様々なストレスと向き合わなければならない。
■アイドルの生命線となった「握手会」、だが精神的な疲弊は限界に!?
現在日本には、地下アイドルを含めればアイドルグループの数は4000組以上とも言われる。もはや誰でもアイドルを名乗れる時代であると同時に、アイドルを辞めることへの精神的なハードルも低くなった。そのため、彼女らに“アイドル然とした覚悟”を求められる時代でもなくなった。ただし、この“アイドル戦国時代”を勝ち抜き、TVや雑誌で日の目を浴びるのは並大抵のことではない。そうした中、アイドルが生き抜いていくために産み出したのが“接触商法”だ。
“接触商法”とは、アイドルと直接触れ合えることをウリにするイベントや商品のことを差し、代表例としては「ハイタッチ会」、「握手会」、「ツーショットチェキ」などがある。事実、日本のアイドルシーンを牽引するAKBグループにとって「握手会」はファンとメンバーを繋ぐ大切な行事となっている。AKBクラスともなれば「握手会」に10万人が集まることもあり、運営側にとってもCDやグッズの売上を得るためのビジネスとして欠かすことのできないイベントとなっている。
しかし、アイドル側の立場になってみると別の側面が見えてくる。握手会では数千人の見ず知らずの相手と握手をしなければならず、精神面・体力面での負担が大きいことは容易に想像できる。NMB48の山本彩は自身が出演したドキュメンタリー映画で“9時間”対応したと語るなど、「握手会」の長時間対応も常態化。実際、テレビ番組の相談コーナーでHKT48・草場愛は「男性が怖い」、「握手会が嫌」といった悩みを指原莉乃に打ち明けたことも。
ファンとアイドルが触れ合える場として認識される「握手会」では、グループ内での人気が如実に分かってしまうプレッシャーや、アンチが“説教をする”、“罵声を浴びせる”などの問題もあるという。卒業を発表した乃木坂・生駒もアンチからの攻撃に悩んでいたとされ「握手会」も休みがちだったという。2017年8月1日の公式ブログで生駒は「握手会、欠席してしまいすみませんでした。 皆さんの優しさや、期待に応えられる状態ではなかったのです」とコメント。さらに「アイドルだけど、根っこは普通の人なんだ」と苦しい胸のうちを明かしていた。だが、会場でアイドルたちが疲れた顔を見せたり、塩対応でもしようものなら、SNSでファンたちに叩かれたり炎上してしまうのが現状なのだ。
さらに、2014年にはAKB48のメンバーふたりが「握手会」の最中にファンにノコギリで襲撃される事件が発生。昨年も欅坂46の握手会の会場で発煙筒が焚かれる騒ぎが起きている。いくらセキュリティを強化すると言っても、10代や20代前半という人生で一番多感な時期の女性にとって、「握手会」を代表とする“接触商法”が与える心理的負担ははかりしれない。事実、川栄はこの事件の影響でAKBを卒業。「去年の事件があって、握手会に出られなくなって。AKB48は握手会を大事にしてるけど、私は出られないし、これからも出られることはないし…」と、AKB=握手会という現実と向き合い悩んだことを明らかにした。
■ハグ会、抱っこ会、過激化する“接触商法”の是非
ところが、“接触商法”において「握手会」、「ハイタッチ会」、「チェキ撮影会」などはまだ序の口で、アイドルとハグができる「ハグ会」や、直接抱っこできる「抱っこ会」など、より過激さを売りにしている”接触商法”もある。ブレイク前のももいろクローバーも「抱っこ会」や「ハグ会」を行っていたのは周知の事実。地下アイドルから飛躍したでんぱ組も、ブレイク前は“接触商法”に頼らざるを得ない時期が長く続いていた。もちろん、ブレイク後にこうした“接触商法”を少なくしていくグループもあるが、AKBやハロプロをはじめ、多くのアイドルグループがこうした手法に頼らざるを得ない状況が長く続いている。
過激化する“接触商法”についてはアイドルファンの間でも議論になっており、ブラックマヨネーズの吉田敬は、過激化する“接触商法”について「握手会とか一切なく、歌とダンスで勝負やって方向にはならないのか?」とTV番組で問題提起。ネット上でも近頃のアイドル卒業の動きをうけて議論が活発化。「接触商法で稼ぐのが長続きする秘訣」、「接触商法今すぐやめろと思う」、「接触商法とかでアイドルのイメージが悪くなった」、「接触商法の何が悪いんだ」と賛否両論の意見が交わされている。
運営側にもファン側にもメリットの大きい「握手会」だが、“接触商法”のあり方について見直す時期にきているのかもしれない。一連のアイドルたちの卒業・休業劇の増加はアイドルたちが自身の働き方について“限界”を示したサインと見ることもできる。
「握手会」に限らずアイドルとファンが触れ合うイベントは、参加するアイドルたちの心と体のバランスに十分配慮した企画でなければならない。今後、アイドル業界が“ブラック”と敬遠されないためにも、過激化する“接触商法”や労働環境について、立ち止まって考える良いタイミングなのではないだろうか。