業績不振が続く電機・ハイテク業界、地銀中心に再編・統合の最中の金融業界。「限界業界」から聞こえてくる悲鳴をリポートする。
メガバンクにいた50代の元行員は出向・転籍前のときをこう振り返る。
「出向させられる直前の50歳ぐらいになると意識する。相手先により処遇に違いがあるが、給料はだいたい半分になる」
黄昏の日本に高度経済成長という時代があった。半世紀近くを経て有効求人倍率はその末期以来の高水準にある。だが、この人手不足の最中に企業の構造改革、人員リストラが止まらない。
今年に入りNECや富士ゼロックスが人員リストラを相次ぎ打ち出した。
NECは1月30日、2020年度に向け国内で3千人を削減する構造改革を発表。他社に比べ多い間接費の削減を狙う。国内8万人を対象に、退職による自然減を含まず希望退職者募集などで減らす。翌31日は富士フイルムホールディングスが傘下の富士ゼロックスを再構築し、新会社が世界で1万人を減らすと発表した。
電機・ハイテク関連業界は韓国や中国勢の躍進が著しく、日本勢は劣勢で事業撤退や再構築を加速させている。最近は人工知能(AI)や自動運転技術などの開発競争が激化し、先端分野への取り組みも必要だ。
電機・ハイテク関連業界で「開発部門の人材を採りにいっている」というのは、組織・人事コンサルタントの秋山輝之・ベクトル副社長。人材配置を見直すリストラが増えているという。昨年はニコンやウシオ電機などが希望・早期退職者を募集し、東京商工リサーチによると、主要企業の募集件数が5年ぶりに増えた。
求職者に対する求人数割合の有効求人倍率は昨年平均で1.50倍。厚生労働省によると1973年の1.76倍に次ぎ過去2番目に高い。リストラ増加について、秋山氏は「転職先がある状態になり企業がリストラする環境が整った」と話す。
電機・ハイテク関連業界にとどまらず、高給で安定イメージの強かった銀行業界もリストラの最中だ。
地方銀行105行には規模の利益を求め、地域を超えた経営統合で生き残りを目指すところが少なくない。
新潟県の第四銀行と北越銀行が目指す経営統合は昨年末に公正取引委員会が認めたことを受け、今年から本格的に動き出す。総資産は8兆円規模となる。
地銀の総資産をみると、横浜銀行と東日本銀行が経営統合したコンコルディア・フィナンシャルグループ(東京)を筆頭に上位10に10兆円規模がひしめく。
千葉銀行と武蔵野銀行(埼玉)の包括提携や、青森銀行と秋田銀行、岩手銀行の東北3行連携、百十四銀行(香川)と阿波銀行、伊予銀行、四国銀行(高知)の四国アライアンスなど緩やかな業務提携もある。歴史的な低金利など厳しい収益環境で、今後は利益を求め経営統合し、大規模なリストラに乗り出す可能性もある。
日本銀行が春秋に公表する金融システムレポートで昨年10月の資料は、日本の金融機関は国際的にみて収益性の低さが目立つと指摘。「可住地面積当たりの金融機関店舗数で、日本は突出して多い」とし、「従業員数や店舗数は需要対比で過剰の可能性」があるという。全国銀行協会によると、3メガも含め116行の総職員数は約30万人。このほか嘱託や臨時従業員もいる。
大手行では、みずほフィナンシャルグループが昨年11月に構造改革を発表した。26年度までに約1万9千人を削減する。非正規も含め連結ベースで8万人の従業員が対象だ。自然減だけで対応できず、本格的な人員リストラとなる。
みずほは第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行が統合して誕生したが、統合直後から大規模なシステム障害が相次いでいた。その対応に「大量の人員を投入して伝票など処理作業に追われていたはずで、それにめどがつき今回のリストラになったのではないか」とライバル行の関係者はみる。
一方、大手行再編で誕生した3メガの他の2グループは統合直後から人員削減を進めていたとみられる。
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は昨年11月発表の23年度までの経営計画で9500人分の業務量削減を目指し、うち6千人程度は自然減で対応する。自然減分を差し引いた業務量削減分の3500人相当は成長分野などへ人材投資する計画だ。
三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)は昨年5月に発表した3カ年の中期経営計画で、4千人分の業務量削減を打ち出した。店舗改革や作業効率化などが柱となる。中期計画後に海外部門などで人員を増やすのか、減らすのか、未定としている。
3メガでみずほ以外は人員リストラを計画していないというが、実施の可能性はある。正規に比べ雇用期間など身分が不安定な非正規従業員が金融機関には多く、今後継続雇用されるかが焦点だ。4月からの法改正で、有期雇用の従業員は5年を経て自ら申し出ると無期雇用に転換できる。
有価証券報告書によると昨年3月末の証券などを含めたMUFG全体の従業員は11万5275人、ほかに嘱託7100人と臨時従業員2万8600人がいる。SMFGの同期の従業員は証券などを含め7万7205人、このほか嘱託・臨時従業員が1万9432人いる。
3メガについて、元行員は「一般企業と違い、毎年リストラしているようなもの」と話す。大手行では定年が60歳ながら52、53歳で取引先などへ出向し、1年の猶予期間後は出向先に再就職する慣行がある。
冒頭の元行員は、出向前に現職のままの人と検査関連業務など待機ポストに移る人に分かれるとし、「検査などに移ると給料が下がり憂うつになることがある」と話す。「出向先が銀行関連企業なら直前に知らされ、融資・取引先なら2、3カ月前に面接がある」という。
転出先として銀行関連企業は数が限られ、「給料がすごく下がることがある」が、「クビにはならない」と元行員は語った。
一般の企業の場合は「クビになったり、給料を下げられたりすることがある」が、「偉くなる人もいる」と話す。
コンサルタントの秋山氏は銀行業界の正社員についても「かつてのようにグループ会社や取引先に引き受けてもらう余裕がなくなってきている」と指摘する。実際、「メガバンクからの人材流動化は始まっている。昨年後半から転職希望者が増えている」と話す。(本誌・浅井秀樹)