家庭用エネルギーの主役の座をかけた“春の陣”が佳境に入った。東京電力はIH(電磁誘導加熱)クッキングヒーターを中核にしたオール電化住宅をアピール。東京ガスは最新ガス機器の売り込みに躍起だ。電気かガスか。両社ともに料理ショーを主体にした体験キャンペーンを繰り広げ、対決ムードが過熱してきた。(伊藤俊祐)
≪“聖域”に挑む≫
東京電力は21日、千葉市美浜区の幕張メッセで「オール電化体験フェア」を開催した。目玉企画は予約の取れないイタリアンレストランとして有名な「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」の落合務オーナーシェフによる料理ショー。華麗な腕は、来場者を魅了した。
また、45台のIHヒーターを並べたコーナーを設置。炎が出ない調理器具を親子で体感する姿も目立った。「少し前までは高齢者の方が多かったが、雰囲気が変わってきた」と東電の高橋朗販売営業本部営業部部長は語る。
家庭の給湯や厨房(ちゅうぼう)用の熱源は2000年の電力小売り自由化までは、都市ガスやプロパンガスが独占していた。しかし、新たな需要創出に迫られた電力各社は、キッチンや給湯、冷暖房など住まいで使用するすべてのエネルギーを電気で賄うオール電化住宅を引っさげて、この“聖域”に挑んだ。
最近では、燃焼を伴わないため「安心」「クリーン」といったイメージが浸透しつつあり、建設戸数が急伸している。東電エリアの新設戸数は2005年度は約5万6000だったが、06年度は7万7000へと一気に増えた。3月末までの普及戸数は累計で、32万戸程度に達したとみられる。
東電は、毎年1回ペースで住宅会社や住設機器メーカーが参加する体験フェアを行っていたが、こうした流れに拍車をかけようと、この春は千葉に次いで、5月12、13日に横浜市西区のパシフィコ横浜でフェアを開催。「中華の鉄人」として知られる陳建一さんらが一流の技を披露する。さらに今秋には埼玉でも開く。
また、電化体験フェアだけでなく、料理体験ショーの開催回数も増やし、5月末までに各地で28回にわたって実施する予定だ。
オール電化住宅は、これまで栃木や群馬などのプロパンガスのシェアが高い地域で顕著に伸びていたが、最近は千葉、神奈川、埼玉という都市ガスが主流の3県でも受注が増え始めてきた。各地でのフェアの開催は、こうした事情をにらんでの戦略だ。
≪80年のノウハウ≫
一方、受けて立つ東ガスも「ガス・パッ・チョ!キャンペーン」を展開中。大型商業施設などの一角でガスコンロを使い、簡単な料理をつくる体験会は昨秋スタートしたが、今春は昨秋に比べ回数を5割ほど増やす。
“先進的”というイメージが強いIHクッキングヒーターに対して、最新のガスコンロも負けていない。難しい火加減を全自動で行ったり、食材を入れるタイミングを声で教えるなど、付加機能を備えたタイプが続々登場している。
6月中旬まではショールームなどで、料理づくりの体験会も随時開催。東ガスは調理用の燃料が薪からガスへの転換が始まった大正時代から、料理教室を行っている。80年以上にわたって積み上げてきたノウハウによって、炎を使った料理の楽しさ、おいしさを強く訴求する。
ガスコンロだけではなく、身体に負担の少ない低温・高湿度のミスト(霧)によって発汗を促す入浴法、ミストサウナのアピールにも力を入れる。その一環として商業施設などに簡易タイプを設置。手を入れて感触を楽しめるようにした。ショールームでは、実際に体験した後、美容相談員がメーキャップとスキンケアアドバイスを行うコーナーも用意している。
東電は09年度のオール電化住宅の年間増加戸数を20万戸以上に設定し、大幅な底上げを図る。東ガスは11年度までのガス販売量の伸び率を、年平均2・5%に設定している。両社とも強気な計画を達成するには、大規模キャンペーンによるPRが重要なカギを握るとみており、体験フェアや料理ショーはさらにヒートアップしそう。
ただ、消費者にとっては、じっくり性能を吟味できる機会が増えて好都合。住宅関連の買い物は額が大きいだけに、最新機器に興味があればキャンペーンに足を運ぶことをお勧めしたい。
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