電気代爆上がり 全国10電力独自試算で格差 「実際の料金」が一番高い地域は〈AERA〉

東京電力など大手電力会社の「規制料金値上げ」。上昇率ばかり強調されるが、下がった項目もある。実際いくらになるか、独自試算した。AERA 2023年7月10日号より紹介する。 【図】値上げ後の電気代、全国比較はこちら

*  *  *  6月1日から「規制料金」と呼ばれる電気料金が値上げに。新聞やテレビでは「こんなに上がる」と煽る報道ばかりだったが、現実的にはどうなるのか。規制料金の値上げを実施したのは大手電力会社(旧一般電気事業者=旧電力)10社のうち北海道電力、東北電力、東京電力、北陸電力、中国電力四国電力、沖縄電力の7社だ。  規制料金(各社のプラン名は「従量電灯」)は古くからある料金プランだ。消費者保護のため国の規制で縛られており、値上げにも国の認可が必要である。  実際のところ規制料金の値上げの起点は6月1日ではない。4月1日にも託送料金(後述)上昇にまつわる値上げが実施された。その脇で、あまり報道されないが下がった項目もある。 ■4月の値上げの正体  まずは複雑な仕組みについておさえよう。規制料金は「基本料金+電力量料金+再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)+燃料費調整額」の4項目から算出される。このうち「基本料金」は固定(契約アンペア数が上がるほど、高い)。「電力量料金」「再エネ賦課金」「燃料費調整額」はあなたの電力使用量により変わる。 「電力量料金」は、使った電力量に応じて3段階の1kWhあたり単価が各社で設定されている。「再エネ賦課金」も1kWhあたりの全国一律単価があり、年に1度、見直される。「燃料費調整額」も1kWhあたりの単価が設定されており、その値は各社で異なる(発電燃料価格などの動向を受けて毎月発表)。  4月1日に実施されたのは、「基本料金」の中に含まれている「託送料金」の見直しだ。託送料金とは送配電網の利用料金のこと。電力の小売事業者が送配電事業者にいったん支払い、最終的に私たちが負担する。  電気・ガス料金比較サイトを運営するエネチェンジ上級執行役員の曽我野達也さんによれば、「6月1日から一部の旧電力で『規制料金』が値上げされました。規制料金の改定には国の認可が必要。『託送料金』の変更も国の許可が必要で、旧電力10社すべてが値上げしました」。  旧電力は電力量料金と共に燃料費調整額の引き上げも切望していた。日本の発電は7~8割を火力に依存しているが、石炭や天然ガスの高騰で発電コストが膨らんでいたためだ。

 国が目を光らせる規制料金の場合、燃料費調整額には“上限”が設けられている。どんなに石炭や天然ガスの燃料コストが上がっても、上限を超えた部分の実費は旧電力が被ることに。  2016年4月の電力自由化以降に参入した新電力は調達コストの増加に耐えきれず、22年に燃料費調整額の上限を相次いで撤廃してしまった。旧電力も、規制料金以外の自由料金プラン(東京電力でいえば「スタンダードS」など、関西電力なら「なっトクでんき」など)には燃料費調整額の上限がない。 ■赤字を垂れ流していた  新電力(大手では「東京ガスの電気」や「ソフトバンクでんき」など)ではこの冬、燃料費調整額が1kWhあたり12.99円まで上がった。これに対し、東京電力では5.13円に据え置かれたままだった(いずれも関東エリア)。1カ月の電気使用量が400kWhだったなら、燃料費調整額の上限がない新電力や旧電力の自由料金プランは規制料金より3千円前後、高くなっていた計算。逆に言えば旧電力はその差額分だけ“赤字を垂れ流していた”。 ■当初申請から減額 「旧電力7社は経済産業省に規制料金の改定を申請し、審査中でした。早くて4月に値上げとなるはずでした」(曽我野さん)  その申請に“待った”をかけたのが河野太郎内閣府特命担当大臣。旧電力による新電力顧客情報の不正閲覧嫌疑やカルテル疑惑などと関連づけ、「もっと厳格に審査すべき」と噛みついたのである。4月中旬には全国5カ所で「公聴会」も開かれ、一般消費者から値上げに対する厳しい意見が出た。 「その結果、従来より厳しい査定が行われ、旧電力7社の申請内容から相当に減額された格好で値上げが認可されました」  こう説明するのは、日本エネルギー経済研究所研究理事の小笠原潤一さん。現在の単価や電源構成は10年以上前から変わっておらず、現状にそぐわないものとなっていた。  さて、規制料金はどれだけ高くなったのか? 6月1日の改定を受けてマスコミの大半が取り上げたのは、経産省が示した試算だ。もちろん計算自体は正しいのだが、22年11月時点と23年7月請求以降の比較なので実感がわきづらい。  また、基本料金と電力量料金は値上がりだが、年に1回見直される再エネ賦課金は5月から1kWhあたり1.4円に下がった。昨年度は3.45円なので半額以下になっている。

 加えて、政府は「電気・ガス価格激変緩和対策」として今年2月~10月請求の燃料費調整額から1kWhあたり7円(10月のみ3.5円)を割り引いている。  値上がりした基本料金と電力量料金、値下がりした再エネ賦課金、激変緩和措置適用後の燃料費調整額を加味して比べないと実情はわからない。そこで、「4月の託送料金値上げ前」と「6月1日以降の電力量料金値上げ後(燃料費調整額は値上げ後の計算式により算出された7月分)」で、全国の旧電力10社の規制料金を試算した。 ■北陸電力48%増の理由  6月1日から電力量料金を改定した7社で最も小幅な上昇なのは東京電力(7.64%アップ)。最も大幅な上昇となったのは北陸電力だった(48.44%)。なぜ北陸電力だけ突出? 「東日本大震災後の原発停止の際、北陸電力だけは電気料金の値上げを申請しませんでした。水力発電のウェートが高く、原発稼働停止の影響を抑えられたからです」(小笠原さん)  震災後に改定しなかった分だけ、北陸電力の値上がり率が大きく見えるというわけだ。とはいえ“率”だけ見ると誤解が生じる。値上げ後の“実際の電気代”を見ると、400kWh使用で1万1626円だ。値上がり率18%超の北海道電力より約3千円も安い。  値上げしない3社のうち中部電力はもともと単価が高めなうえ個人の自由料金比率が高く、企業向け販売も多い。関西電力、九州電力は原発稼働中で火力発電の比率が他社より低い。  ところで、燃料費調整額の上限も6月から更新されている。たとえば東京電力の関東エリアの上限は「1kWhあたり5.13円から7.89円」(東京電力エナジーパートナー広報)。新電力のこの冬の最高額が12.99円だったことを考えると、新しい上限7.89円はまだ割安に見えるが……。 「燃料費調整額の算出式も最新のものになっているため、上限に達するまでには相応のゆとりがあります。すぐ上限に達して旧電力の“持ち出し”になる可能性は低い」(小笠原さん)  なお、現在1kWhあたり7円が割り引かれている政府の激変緩和措置だが、10月以降に延長されることはあるのか。「政治的に延長せざるを得ない」という一部報道もあるが、6月29日時点で確定情報は無い。  真夏や真冬など電力需要が急増する局面で、燃料の争奪戦=価格上昇が発生する可能性は? 「燃料在庫確保の水準目標を定めており、需給逼迫は発生しにくいと見ています。唯一厳しいと言われるのは、供給予備率が3%程度まで低下する東京エリアの7月です」(同)  まずはこの夏を乗り切らねば。 (金融ジャーナリスト・大西洋平)(編集部・中島晶子) ※AERA 2023年7月10日号

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