電話とFAXで取引先にDX化を説く滑稽さ…「いまだにメール禁止」銀行員の寒すぎるデジタル事情

今どき名刺に「メールアドレス」がない!?

デジタル化の流れが急速に進むなか、銀行においてもネットバンキングやスマホアプリが登場し、営業員が顧客面談時にタブレット端末を活用するといった動きがみられる。

しかしながら、未だに、いくつかの銀行や信用金庫では個人のメールアドレスがなく、顧客とのやり取りは、電話やFAXが主流だったりするという。

筆者は仕事柄、多くの方々と名刺交換する機会があるが、一般企業は無論、自営業など個人事業主も含め、名刺には電話番号とメールアドレスの記載があるものだ。

しかし、メガバンクはともかく、地方銀行や信用金庫、信用組合といった地域金融機関では、名刺にメールアドレスが記載されていないことも多い。まれにあっても個人用ではなく支店や部署全体のメールアドレスであったりする。さすがに電話番号はあるものの、よくみると代表電話番号だったりする。

そもそも顧客へのメール連絡が禁止されていたり、「顧客からのメール受信はいいが、顧客へのメール送信は上司の承認が必要」(40代の西日本の地銀本部勤務)な銀行もあるという。 

金融庁によるアンケート調査(20年12月)によると、なんと90%の地域金融機関(455機関)が「営業担当者数をカバーするメールアドレスを整備していない」という驚きの結果が示されていた(写真はイメージ:アフロ)

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9割の地域金融機関が個別メールアドレスなし

皇室においてもSNS発信が始まる令和の時代に一体、どうやってメールアドレスもなく仕事をしているのだろうか。気になって調べてみると、数字でも裏付けされているようだ。

金融庁によるアンケート調査(2020年12月)によると、なんと90%の地域金融機関(455機関)が「営業担当者数をカバーするメールアドレスを整備していない」という驚きの結果が示されていた(出所「金融仲介機能の発揮に向けたプログレスレポート」2021年7月)。

法人営業担当者のうち、地銀・第二地銀は36.2%、信金・その他は33.7%の時間を、融資事務の処理に使っていた(金融機関で、現在または過去10年以内に「法人融資業務」に携わった542人に調査/nCino社2022年5月の調査より)

アナログ対応で半日潰れてしまう 

「なるべく相手の邪魔をしないよう、メールで連絡する」という時代なのに、メールができなければ、やりとりは電話か直接会うことになる。

しかしながら、電話も名刺に代表電話番号のみしか掲載されていないと、例えば、夕方17時を過ぎると留守番電話になってしまい担当者に連絡がとれなかったり、代表番号のため、ダイレクトに担当者に繋がらず転送で待たされる、そもそも不在の時も多く折り返し連絡になる、といった具合に、顧客側も担当者側にも非効率で、かつ時間も無駄になってしまう。

「アナログ対応で、担当者に要件を伝えるだけで半日潰れてしまう」(都内中小企業社長)と嘆く声も聞こえてくる。

融資に関する提出資料や月次報告資料などをやり取りする場合にはもっと大変だ。普通なら、エクセルシートやPDFファイルなどを添付してメールすればすぐに済むのだが、メールがないので、FAX送信や郵送か、はたまた営業店まで持参するか、という選択になってしまう。今時FAXを使ったことがない、またはFAX機器そのものがないという会社や個人宅もある。

「とにかく時間がかかり面倒くさい。銀行とのやり取りは本当にイヤ」(前出の社長)という。

コロナ禍で、営業店の業務用端末によるZoomやTeamsを含むオンライン会議は整備されたものの、メールアドレスがない、または顧客へのメール送信が禁止されているので、アクセスコードのやり取りは電話だったりFAXだったりするというチグハグさだ。 

ネットへの接続も制限されている

メールアドレスがなく、メール送信が禁止されているだけでなく、実は、インターネットへの接続も制限されているという。いくつかの銀行の営業店では、机上のPCなど業務用端末ではインターネットに接続していなかったりする。インターネットを利用する場合には、いちいち自分の席を立ち、支店長や役席者の机の隣にある専用端末を使わないといけないのだ。 

実際、前出の金融庁アンケート調査によると、全体の53%(266機関)の地域金融機関では、営業担当者数をカバーする数のインターネット接続端末を整備していない、という結果となっている。

いまや電車の中でも街中でもスマホがあれば、ささっと何でも検索できてしまう時代なのに、わざわざ上司の隣の専用端末まで調べに行かなければならないので、「よほどでないと使うことはない」(30代の東日本の地銀営業店勤務)という。 

いまの時代、ビジネスシーンで欠かせないスマホだが…

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私用スマホはロッカーにしまうべし

個人のメールアドレスがなく、メール送信も禁止、ネット検索も制限されるなか、私用のスマホやタブレットの取扱いはどうなっているのだろうか。いくつかの銀行では、私用のスマホやタブレットは、業務中はロッカーなどに入れておき、昼休みなどを除き、業務中に私用のスマホは使用できないところもあるという。

もちろん、もはやデジタル化の流れには抗しきれないと、私用のスマホの持ち込みを認め、業務期間中にも利用を黙認する銀行も多い。また、スマホ利用が禁止されていても、咎められることなく利用できている銀行や信金なども多かったりする。日本的な本音と建て前の世界であり、実際には野放しで個人所有のスマホにてメールだけでなく、LINEやSNSが顧客とのやり取りで使われていたりする。結果的に、極めてずさんで高いリスクを冒していることになる。

いずれにせよ、一部の銀行や信金などでは、私用のスマホは持ち込み禁止、個人のメールアドレスはなく、顧客とのメール利用も禁止、各自一台のPCもなく、上席者の席まで行かないとインターネット接続できない。書類などの受け渡しは郵送やFAX、訪問にて行うという、時代遅れなデストピアな世界が広がっているのだ。

「他の業界ならあり得ないが、それで(業務が)回っているのが逆にすごいかも」(前出の銀行員)。殿様商売だから成り立つのだろうか。 

なぜメール送信禁止なのか

信用を第一とする銀行には、預金や借入残高など多くの個人情報が蓄積されており、守秘義務は無論のこと、顧客の情報管理は厳格化されている。

メールの誤送信やウイルス感染など情報セキュリティリスクやサイバーセキュリティリスクへの対応だけでなく、行員の不祥事による情報漏洩リスクにも備えており、万が一にも顧客情報や機密情報が漏洩することがないように、メールやSNSの利用、スマホの持ち込み、インターネットの接続などを厳格に運用しているのだ。 

電話とFAXで「DX化」提案という滑稽さ

最近は、銀行や信金でもDX化やIT化がブームだ。彼ら自身競うように業務のDX化やIT化を進めているだけでなく、デジタル化が遅れる中小企業など取引先企業にもDX化推進の提案を積極的に行っている。

しかし、ここまでみてきたように、肝心の銀行自体、DX推進どころか、メールアドレスもなくネット検索もできないような状況だ。地元の銀行と取引がある関東の40代の自営業者は「DX化促進に関する提案書が、メールではなく電話のあとFAXで送信されてきた」と苦笑する。 銀行が一般の企業と同じように顧客目線や収益目線をもつならば、メールアドレスやネットをより積極的に利用すべきではないか。

令和のデジタル化時代に、営業担当者にメールアドレスさえ付与されないようでは、銀行や信金の前途は多難だ。 

【融資業務変革の阻害要因】 DX推進にあたっての課題の上位は「既存の業務プロセスや既存システムの変更・修正が難しい」「デジタル化やDXの知見が少ない」「推進する人材がいない」…(同上調査より)
  • 取材・文:高橋克英(たかはし・かつひで)株式会社マリブジャパン代表取締役、金融コンサルタント。1969年、岐阜県生まれ。1993年慶應義塾大学経済学部卒、2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。三菱銀行、シティグループ証券などを経て、2013年に同社を設立。著書に『銀行ゼロ時代』(朝日新聞出版)、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』(講談社+α新書)、『地銀消滅』(平凡社)など
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