電話は嫌い、非通知出ない 人事も驚くイマドキの就活生

「学生が電話に出てくれない」――。3月1日に解禁となった2018年卒の採用活動。浪人や留年などの寄り道なしで卒業予定であれば、1995~96年生まれの大学生たちは、生まれたときからの携帯電話世代だ。彼らの通信手段は「LINE」「ツイッター」がほとんど。就職活動になって初めて、「見知らぬ大人との電話コミュニケーション」に直面、とまどう学生も少なくない。通信手段の変化が、就活に思わぬハードルをもたらすこともあるようだ。

■電話対応、採用の評価に

 「電話、やっぱり嫌ですよね。アポの調整はメールがいい」。早稲田大文学部3年の女子大生はこう話す。さらに「知らない番号は気になる」という。就職活動を本格化し始めた昨年秋ごろから、登録した就職支援会社から、イベント勧誘の電話が頻繁にかかってくるようになった。「何時にかかってくる、とあらかじめわかっていれば対応できるけど……」と不快感を隠さない。就活生には電話1本かけるにも事前のアポイントメントが必要なのか。
企業の人事担当者はどう感じているのだろう。
主に海外など遠隔地にいる就活生向けに、無料ビデオ通話ソフト「スカイプ」を使った面接も一部受け付けるなど、採用活動にデジタルメディアを広く活用している携帯電話大手、ソフトバンク。しかし、社会人になってから期待するマナーは違うようだ。採用・人材開発統括部の源田泰之統括部長は、「チームでやる仕事が多いし、コミュニケーションスキルは仕事の成果にかかわる。さすがに電話が全然できないのは困る」という。
ある東証マザーズ上場のアプリ開発会社の人事担当者は「電話の対応はチェックする」ときっぱり。面接やインターンシップ(就業経験)など、「よそ行き」の顔がいくらしっかりしていても、電話のやりとりができなければ評価が下がるそうだ。また、この会社はメールの返信の早さ、遅さなどの対応力も見ているという。
その一方、「『未登録の03ナンバーは怪しい』と思われているのだろう」と、電話に出ない学生の行動に理解を示した。着信履歴を見たらまず検索でチェックし、企業名を確かめてから折り返す、という動きは、IT(情報技術)リテラシーの高い学生には当たり前の自己防衛なのかもしれない。
どちらにしても、インターネット上にマニュアルが流布する今だからこそ、メールや電話の対応力が「学生の素を見たい」という採用担当者にとって絶好の機会の一つとなっているようだ。
マスコミに勤務する30歳代の女性は、送られてきたOG訪問の依頼メールに感心した。「拝啓」に始まり「敬具」まで、非常に丁寧な文面だったためだ。ところが、実際に会ってみて、もっと驚いた。「会ってみたら目をあわせてくれないし、ずっと、おどおどしていた。メールではしっかりしていたのに……」。電話にかぎらず、面と向かっての対応が苦手、という学生は多い。

■「非通知」なんてありえない

 「学生は電話が苦手」と断言するのは、20年以上採用市場を見てきた就職情報大手、マイナビ(東京・千代田)の栗田卓也HRリサーチ部長だ。今どきの就活生は、LINEや フェイスブックの無料対話アプリ「メッセンジャー」など、文字だけのコミュニケーションに慣れている世代だ。しかも、同世代の友人とのやり取りがほとんどなため、「急に大人と接触する機会が訪れたり、電話で話そうとしたりすると緊張してしまう」(栗田部長)。さらに、「非通知」の電話には出ないという学生が少なくないという。
人事が番号非通知で学生に電話をかけてくることもままある。採用現場の苦悩を描いた小説「あの子が欲しい」の作者、朝比奈あすかさんは、「非通知での電話連絡は、できるかぎり情報を開示せず人を採りたい、という採用側の傲慢さが出ている」という。
ただ、非通知は必ずしも故意とは限らない。栗田部長は「学生がつかまらないと嘆く人事に、もしや『非通知では』と確認すると、意図せず設定されていた、というパターンがある。オジサンはITに弱くて」と苦笑い。小さな確認もれで優秀な学生を取り逃がすケースもありそうだ。

■友人とのコミュニケーション、電話は1.3%

 マイナビが17年2月に18年卒の就活生を対象に実施した「ライフスタイル調査」では、友人とのコミュニケーションに使うツールはなんと9割がLINEだった。一方、電話は1.3%とごくわずか。スマートフォンの保有者は98.5%と「ほぼ全員持っている」状態だが、通話の頻度は少ないようだ。
しかし、実際に日々仕事に向かうビジネスパーソンは誰もが「『電話が苦手なので』では仕事にもならない」と即答するはずだ。前述の栗田部長も、「電話のコミュニケーションに慣れていないのなら、就活で慣れたほうがいい」と進言する。日々の仕事で必要なスキルだからこそ、面接官がチェックしている。
学生諸君は「面接以外の場面でもチェックされているなんて」と負担に思わず、この機会に「大人との電話コミュニケーション」を克服してはどうだろうか。
(松本千恵)
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