電車優先席の携帯オフ 関東と関西で車内対応が分かれた理由

「優先席付近では携帯電話の電源をお切りください」──電車内でよく聞くこのお馴染みのアナウンスが関西で消えた。電車内での携帯電話ルールを巡って大きな変化が起きている。
 京阪神地域を走る電車は各線とも、この7月1日から優先座席での携帯電話の電源オフキャンペーンを取りやめた。
 これまで乗客は、「携帯電話の電波が心臓ペースメーカーの誤作動を誘発するから」という理由で、優先座席付近では終日、携帯電話の電源を切るよう求められていたのだが、7月以降は「混雑時」だけオフにすればいいということになったのだ。「電源オフ車両」を走らせていた阪急電鉄の説明。
「電源オフ車両は2003年から導入していました。当時の総務省の指針もあり、現在より心臓ペースメーカーへの影響を心配する方が多く、お客様が不安にならないよう明確にしたほうがいいという考えがあったからです。
 しかしこの度、その総務省の指針が変わりました。他社との相互乗り入れなどもあるので、関西全体で統一したほうが、お客様により理解していただきやすいという判断で廃止しました」(広報部)
 関西の私鉄24社が加盟する関西鉄道協会とJR西日本がルール変更に踏み切ったきっかけは、昨年1月に総務省が行なった「携帯電話の扱い方を定めた指針」の改正にあった。
「2012年7月、電波出力が強く、ペースメーカーの動作に影響があるといわれていた第2世代(2G)と呼ばれる携帯電話のサービスが終了しました。
 それを受けて第3世代携帯(3G)を使って、25種類のペースメーカーを対象に測定したところ、3cm以上離れれば携帯の電波はペースメーカーに影響を与えないことが判明した。そこで『混雑した場所では注意する』と、指針を改定したのです」(総務省総合通信基盤局電波部電波環境課)
 そもそも、携帯電話でペースメーカーの誤作動が起きた事例はこれまで一件も報告されていない。携帯マナーを巡るトラブルも多かった。
 一昨年の9月にはJR亀有駅で、車内の携帯使用を巡って男性2人が口論となり、一方がエスカレーターの上からもう1人を突き落として重傷を負わせる事件があった。事件には至らないまでも、「携帯電話の使用に関する揉め事は日常茶飯事」と語るのは、関西の某私鉄の職員である。
「関西はこうしたマナーに関してやけに正義感が強い土壌なのか、トラブルが特に多いように思われます。優先座席の近くで携帯を使用しているお客様がいると、乗務員に“注意しろ”と要求する方もいますし、お客様同士でトラブルになることも多い」
 しかし、足並みを揃えて変更した関西と違い、関東の電鉄各社は静観の構えを見せている。
「関西の動きは認識していますが、関東鉄道協会としては今後どのようにするか決めていません。事業者に寄せられる意見をもとに、各社が個別に対応していくと思います」(関東鉄道協会担当者)
 私鉄各社に確認すると、「これまで通り優先座席付近での電源オフを継続する予定」という回答ばかりが寄せられた。機器への影響がないのなら、関西方式に倣ったほうが乗客の利便性が高まると思えるのだが、関東の私鉄のベテラン乗務員はこう語る。
「関西と混雑具合の違いがある。関西は朝夕の通勤通学時間帯に混む程度だが、東京は時間、上下線に関係なく混んでいる路線も多い。“安全性が100%でなければ解禁できない”という姿勢です」
 確かに前述した総務省の検査には「3cm以上離れれば」という条件があった。ただ総務省に改めて確認すると、その3cm基準も、
「影響が出たものは脈動が1拍なくなる程度のもので、すぐに正常動作に戻りました。一時的に問題があっても、人が倒れるようなものではない。我々がルールをどうしてくださいといえる立場ではないが、できれば実態に合わせて見直してほしいと思います」
 前出の関東私鉄ベテラン乗務員が本音を明かす。
「結局のところ、問題が起きていないならそのままにしておこう、ということですね。関東はゴタゴタに巻き込まれたくないという意識が強いのか、クレームをいう乗客が少ないという事情があります」
 関西ではペースメーカー着用者から「電源オフをいわなくなってから、優先席付近でも携帯を使う人がいて不安になった」との声が上がっているという。
「トラブル、混乱防止の観点からも、全国的に優先座席での携帯マナーを統一することが望ましい。関西が総務省の指針で一気に動いたことを考えても、今度は国交省が指針を出して働きかけることが必要なのではないでしょうか」(鉄道アナリストの川島令三氏)

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