震災伝承の「ソフト面」支援を 被災地団体、予算創設訴え

「震災を伝承するソフト面の予算化が必要ではないか」。東日本大震災から10年が過ぎた被災地で、こんな声が上がり始めた。震災で若い世代も含めて語り部活動が活発化したが、担い手の熱意に支えられているのが実情。民間団体の関係者は、復興庁が8月中に取りまとめる2022年度予算概算要求で、人材育成や広域連携への財政支援を盛り込むよう求めている。
 7月15日、宮城県議会大震災復興調査特別委員会が石巻市で開いた意見交換会で、伝承活動を担う民間団体のメンバーが懸命に訴えた。
 「政府の復興構想7原則の最初に『教訓を次世代に伝承し、国内外に発信する』とあるのに、ソフト面の予算付けがない。県も復興庁に要望してくれないか」
 被災地では近年、復興予算が投じられた公設の伝承施設や震災遺構が次々とオープンする。一方で民間団体が主催する伝承プログラムの参加者数は、震災への関心の低下から減少傾向にある。新型コロナウイルスの感染拡大が、さらに追い打ちをかける。
 石巻市の公益社団法人「3・11みらいサポート」が20年に岩手、宮城、福島3県の民間団体に実施した調査によると、主に企業や個人からの支援や寄付に頼る活動資金について、今後は国の財源を期待する団体が7割と最も多かった。
 宮城県山元町の「やまもと語りべの会」の高橋健一さん(67)は「語り部を養成する研修経費を支援してほしい」と願う。陸前高田市の一般社団法人「くぎこ屋」代表の釘子明さん(62)は「学校に語り部の利用費を補助してはどうか」と提案する。
 国の財政支援がないわけではない。復興庁は被災者支援総合交付金が活用できるとしている。ただあくまで「心の復興」のためのもので、震災伝承が目的ではない。
 3・11みらいサポート専務理事の中川政治さん(45)は「防災意識をどれだけ高められたかを事業の指標とすべきだ」と性質の違いを強調。「伝承はこれからが大事。汗をかき、リスクを背負って活動し続ける人たちのプラットフォームを国が下支えしてほしい」と呼び掛ける。
 復興庁予算・会計班の担当者は「国の第2期復興・創生期間の基本方針などを踏まえ、概算要求を取りまとめる」と話すにとどまる。

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