梅雨の合間の良く晴れた朝だった。僕は一週間前にようやく社員旅行を終えて仕事に復帰していた。なんとなく旅行の後から会社のムードが変だったが、ちょっと疲れていたので気にも止めないでいた。
朝出勤するとすぐ、副部長以上が社長室に呼ばれ会議が始まった。社内はざわついていた。5分位するとその会議は終わった。そして僕が呼ばれた。社長室に入るとそこには、社長、三上部長、総務部長の三人がいた。いやな予感がした。僕はソファにすわった。
「何でしょうか?。」
最初に切り出したのは僕だった。
「お前は来月から営業だ。配属部は三上部長のところだ。」
「何でですか?。」
「お前は仕事が偏っている。三上部長の仕事を断ったりした。」
「三上部長の仕事を断ったら、何で営業なんですか?。」
「三上部長の元でお前の製作的知識を生かして仕事をやってくれ。三上部長、総務部長これでいいですね。」
僕はそのまま退室し、自分の席に着いた。僕と社長等のやりとりは会話になっていなかった。ほどなくして社長と三上部長が出掛けた。それを見て青竹さんが僕のところへ来た。
「八木くん、今いわれたの?。俺達もさっき集められて、いきなり社長がこう決めたからっていうんだよ。なぜだって聞いてもわけの分からない事ばかり言って話にならないかったんだ。それで根掘さんの件は聞いた?」
「聞いてないです。」
「根掘さんが取締役からはずされて一人で新しい部を作るんだって。部課もいない部長になるんだって。左遷だよ、根掘さんは。なんかめちゃくちゃだね。俺もちょっと調べるから早まったまねはしないでね。」
「早まるって、そんなことするわけないですよ。」
青竹さんはこういって自分の席に着いた。僕はちょっと気が動転していて、この時点ではどういうことかを理解していなかった。窓から見える青空がやけに奇麗だった。このところ毎日雨で、本当に久しぶりの青空であった。
そして心の中に浮かんだ言葉が自然と言葉になり、力なく言葉になっていた。
「これが本当の。晴天の霹靂っていうんだろうなぁ。」
きっと、あのメモの件でこうなったんだろうと、思った。しばらくこれからどうしようか考えていた。
昼食を取りしばらくだってひとつの結論が侠の中に浮かんで来た。僕のレギュラーは住宅展示場と新田自動車だから僕の知識を利用して営業するのなら、千田部長のところか青竹さんのところにいくはずである。しかし、仕事上一切関係のない三上部長のところである。しかも三上部長のところは飛び込み営業主体で媒体のメニューを販売する部署であり、製作なんてほとんど皆無に近い部署である。
さらに、僕は製作をするためにこの会社に入ったのである。営業をするのならもう少しましな会社に入っていたはずである。僕は制作マンとして誇りをもっている。これは単なる嫌がらせ、直接クビにできないから遠回しにいじめる作戦だろう。その夕方、僕はめんどくさいので退職を決めた。
僕は青竹さんに退職の旨を伝えた。青竹さんも承知してくれた。
翌朝、僕は社長に退職届を提出した。
夜になり僕は根掘部長と飲みに行った。METの平山さんも一緒だった。僕をこの会社に引き抜いてくれたのは根掘部長であり、住宅展示場で世話になったていたのは平山さんであった。僕は、二人に来月の7日で退職する旨を伝えた。僕は平山さんに仕事を途中で投げ出したことを謝った。
左遷された根掘さんは取引先もすべて取り上げられ、途方に暮れていた。そして
「家族がいるので、どんなことになっても、しばらくは社長側の出方を見ているしかないな。」
と言っていた。
その日は、三人でしこたま飲んだ。また、来週飲もうといって別れた。
一月後、平山さんは原因不明の病気で半年間入院した。根掘さんはあれ以来、社長以下三上部長、総務部長のいじめにさいなまれながらもじっと耐えているそうだ。
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